己が休日を過ごすのに向かない体質だとは理解していた。
働きすぎだとほとんど無理矢理太閤と三成から与えられた三日の休暇でさえ、二日目のこの朝の時点ですでにもてあましている。
ならば旅行だ慰安だと浮かれることはこの身に巻きつく幾重もの包帯が無理だと諭していた。
全く忌々しい病の種よ。
「…さて、そろり巻くか」
視界の端に映る積まれた包帯の山に嘆息し、仕方なく足から巻いていった。
この身体を蝕む病のせいで、たまの休暇も布団か部屋の中でしか過ごせない。
外へ出ればわれではなく周囲がどのような反応をするかくらい自明なことだ。
おかげで昨日は非常に遅々とした時間を一日味合わせてもらった。
これがあと二日続く恨みを三成へ向けるのは、まあせんないことだろう。
―――――…
「…こんなものか」
両足から腹、胸、左腕と慣れた手つきで包帯を巻き終えた。
毎朝の日課ともなれば困難な箇所も容易く巻けるというもの。
しかし、普段使わぬ左手で右腕を巻くのは並のことではない。
いつもの従者を呼ぶか、それともこのまま放置するかを頭に巡らせていた時、部屋の襖が控えめに叩かれた。
「刑部、起きてる?」
小雨だ。
その声を聞くのが実に久しい気がしてならない。
それというのも、昨日は「久しぶりの休暇だから」と丸一日われの部屋へ足を入れるのを慎んでいたためだが。
そういった気遣いはどこで覚えてくるのやら。
「刑部…?」
「起きておる。ぬしのように昼まで寝たりするものか」
「私そこまで寝たことない!」
ガラッと勢いよく襖が開かれた。
相変わらずこの単純さは見事なものがある。
多少拗ねたような表情で飛び込んできたものの、この姿を見るときょとんとした顔に変わった。
「刑部包帯巻いてたの」
「ああ。見るのは初やもな」
「うん」
こちらを見つめる小雨の視線はまるで空間に図示されたように分かったが、気がつけば自分も小雨の顔をまじまじと注視していた。
昨日一日見なかっただけの顔がなぜだかやけに懐かしい。
顔だけでなく、声も、空気も。
「来やれ」
そう声を投げると、小雨は素直に部屋に入りわれのそばへちょんと座った。
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