大谷吉継 | ナノ





真っ暗。水底。紫の闇。死相に烏の濡れ羽色。
絶望とは一体どれに似ているのだろう。



格子のはまった窓枠の向こうを城下の子ども達が楽しげに駆けていった。
抜けるような青空はこの部屋にひどく似合わない。
日の光は入るものの、入り口の扉は閂で固く閉ざされている暗く狭い部屋。

こうして外を眺められる窓枠がついているのは気分を変えられるようにという配慮ではなく、外の世界と自分の遠さに気を滅入らせるためと知っていた。
両手を拘束する手枷は意気の全てを鈍らせるため。


全ては絶望を呼ぶことに繋がる。


黒田さんに会ったら手枷を話題に盛り上がれるかも知れない、と考えると笑みがこぼれる。
ああ、まだ私は笑えてしまう。



「…無理だと、思うのにな…」

「何がだ」



出入りの音さえ聞こえなかったのに、その声はいつものように私の横にやってきた。
ゆるりとそちらに首を向けると、部屋を覆う暗闇とほとんど同化した刑部の姿が視界に入る。
思わず笑みを浮かべそうになった口端を、何とか力を込めて水平に戻した。



「…刑部はいつも何処から入るの?」

「ぬしの知らぬ所からに決まっておろ。空間のねじれとでも言えば満足か?」

「私はね」



体を刑部に向けるために床に両手の手枷をつくと、ごとりと重苦しい音が響く。
それを一瞥したかと思いきや、私の顎に指を添え無理に自分の顔の高さまで引き上げた。



「いっ…」



急ぎ膝立ちになって高さを合わせるも、持ち上がらない両腕にかかる重力と引き上げる刑部の力で体の骨が伸びるような痛みが走った。
目の前にある相貌は私の瞳の中を貫いたまま動かない。



「まだ瞳に光があるな」

「…そっか」

「何故だ」



ぎり、と刑部のどこかが軋む音がした。
歯ぎしりか、握った拳か、それとも体の軋みか。



「何故ぬしの顔に絶望が浮かばぬ。光も自由も全て奪ったと言うに、何故まだその眼は生きやるか」





それはあなたがいるからだよ。





そんなこと、もう何回も答えてきた。
答えるたび刑部の顔の包帯が苦し気に歪むから、いつからか答えはしなくなったけど。



「…私には、無理だと思うよ。絶望も、不幸も、染まれないと思う、よ」




prev next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -