―国外で戦中―
夜、戦場の布陣が描かれた巻物と睨み合いをしていた吉継へ、三成が久しくぶりの物を持ってやってきた。
「刑部、民から兵糧の一部として柿を贈られた。食え」
「柿か……」
(刑部、今年も庭の柿は渋柿だった……)
(あれは生涯渋いままだと言うたであろ、小雨)
(うん……諦めきれなくて)
(……渋いまま収穫した柿は三晩の間、布団で温めれば熟すると聞くが)
(本当?)
(刑部、何かいけなかったみたいで柿は熟さなかった……)
(っ、さようか。何がいけないのやら…)
(その代わり冗談で温めてた鶏の卵が孵っちゃったんだけどどうしよう…)
(ぴよぴよ)
(っ!!)
「…ヒヒ」
「どうかしたか刑部」
「いや何、少々時が戻った」
「そうか」
―戦後、自宅の屋敷―
「刑部ー、戦用の黒い鎧はしまっても良い?」
「ああ、構わぬ。それは頑丈だが動きが鈍って困りものよ」
「この間の戦場、水場が多かったしね」
「まあわれは浮いているが…」
(大谷殿覚悟!)
(!)
(水中に潜む忍如きが刑部に刃を向ける気かあああ!)
自分へ届きかけたクナイはすんでのところで三成の刃に弾き返された。
(三成)
(刑部!無事か!ここは池に忍が多く潜む、気をつけろ)
(いやだからな三成)
(何だ)
(…ぬしが立っているのは「その」池ではないのか?)
(………!)
次の瞬間、激しい水しぶきをあげながら三成が水面に落下した。
元より浮いているが故に自分はこんな場所で忍に襲われたのであって。
(…ついにぬしまで人外の力を得たかと思うたわ、やれ掴まれ)
(っいらぬ、これしきの、ことで、貴様の力など………ごぼっ)
(溺れかけの身で何を…)
(おーい三成ー!わしも加勢に来たぞ!)
(貴様に取らせる首などあるかああああ!)
ばびゅん、と再び水上を凄まじい勢いで駆け抜けた。
後日秀吉の耳にまで届いて、三成が水の上を走れるほどに痩せたらしいが大丈夫かとまで聞かれた。
素直に大丈夫ではないだろうと答えた。
「………」
「刑部?何で笑ってるの?」
「いや、思い出し笑いよ」
「そっかそっか」
楽しい。
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