大谷吉継 | ナノ





風邪というものは年々新しく進化しているのではと刑部は勘ぐる。
病に冒された体のせいか年に一度は季節の風邪を引くのに、毎回今が一番辛く感ぜられるからだそうだ。
いつもそばで看病するたびに気にするな、いつものことと言い含められていた私にとっては、それが初めて見せた刑部の弱みだった。



「…刑部、寝た?」



返事はない。
ようやく眠ることが出来たらしい。
伏せって二日目の今日にやっと熱も下がってきたけれど、三成さん以外の見舞いの人も多く来て、刑部は窮屈な包帯を巻かなければならなかった。
人の目が何より恐ろしいと言っていた刑部の言葉が、この日一番分かった気がする。



「ちょっとごめんね」



布団をめくって左腕を取り出すと、指先からそれをほどきにかかった。
もう日が暮れてお客様が来る予定もないので、それなら早く楽になってほしい。
久方ぶりに深い眠りに入れたようで、両腕ともにほどき終わっても身じろぎ一つしなかった。



「顔と胸元は無理かな…」



上半身を起こさないとほどけない場所は仕方なく諦める。
こちらとしては湿らせた布を額に置きたいところだけれど、こればっかりは。

ほどいた包帯を片付けた後、全くやることがないのに気がつく。
夕げはもうとっくに済んだし、明日の準備も終わっていた。
それと非常に非常に甘ったれな理由だけど、刑部の近くにいたかった。
刑部離れ出来ていないのかなあ…そもそもそれが必要かは置いといて。



「……えい」



ほとんど考えることを放棄して刑部の隣に転がった。
本来なら風邪がうつるとかを考慮しなければいけないのに、毎回毎回罹患した刑部の看病をしても決してうつらないので、私はそういうものとすでに判断されている。



(何とかは風邪をひかぬからな)

(じゃあ刑部は悪知恵ばっかり凄いから風邪をひくんだ)



この発言の後、刑部の数珠が不振に光り始めたのでまる一日逃げ回ったのを思い出す。
失言が治る薬ないかな…ああ、何とかにつける薬はないんだっけ…。



「ん……」



それでもやや不規則な刑部の寝息を聞いているうち、私も意識がとろとろと溶けていった。










ひたり


頬に何かが触れる。
固くて骨ばって、熱いもの。
ああ、手だ。
刑部の手。



「…刑部…?」

「……起きたか」



目元をこすって何度か瞬くと、ほとんど目の前に刑部が寝ていて少し驚いた。


 

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