雨の日の億劫さを言葉に表す術がない。
退屈でも気だるさでもぴたりと当てはまらぬこの感覚は、笑いそうなほど神経を滅入らせる。
「地面が雲から雨を吸ってるのかもね」
先ほど雨戸を開け放ち、寝ているわれへ庭を見せた小雨が呟いた。
雲から雨が降っているのではなく、水を欲した地が雲から雨を吸い取っているのかもしれないと。
相変わらずのあの突飛な頭は天気に関わらず稼働することを知った。
「雲にとってははた迷惑であろ」
「雲も有り難いかも知れないよ。水がたっぷりあったまんまじゃそのうち落っこっちゃうから」
奇天烈なことを言うのが上手い女だ。
われの頭、われの目、われの耳に小雨と同じことを感じろと言うのはまあ酷であろう。
「…湿気が酷いな」
「風がないからね」
嘆息しながら以前小雨に適当に切らせた髪をかきあげる。
昼前でこの程度なら、午後は地獄か煉獄か。
乾けばヒビ入り、湿れば緩まるこの体の使い勝手の悪さは筋金入りだ。
「…動く気も失せたわ」
「寝てる?」
「ああ、脚も多少痛むでな」
包帯も巻かないと言ってみれば、よしきたとばかりにさっさと積んであった包帯をしまった。
このこまねずみのような動きはなぜ微笑を誘うのやら。
横になった視界のままそちらを見ていると、引き出しを閉めおえた小雨が視線に気づいたのかこちらを向く。
そうしてしばらく、われを見つめた。
「どうした」
「…今日は一日中雨かな」
「さてな。昨晩から続いているゆえ、夜には途切れるであろ」
「そっか」
うんうんと多少おざなりな相槌を打って。
「じゃあ私も寝る」
「…は?」
脈絡のない会話はこれと過ごすことで大分馴れたものと思っていたが、まだまだ序の口であったらしい。
こちらの戸惑いなどまるで知らぬ存ぜぬで広めの布団の中へ入ってきた。
「夜這いには刻が早かろ」
「刑部じゃないんだからそんなことしないよ」
「我とて光のない時間にはせぬ。ぬしがよく見えなんだ」
「さらっと恥ずかしいことを言わないでください…」
ぽてん、と隣に横になると、潜り込んだ布団の位置を直して本格的に寝る準備を整えた。
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