目が覚めても時間の感覚はない。
精々夜が明けた、沈んだの違いだけであって、もう朝も昼も分からぬ。
どれだけそのような時間を過ごしたのか、自身でも分からなくなりつつあったある時。
いつもの時間が、来てしまった。
「吉、継、様…?」
開かれた障子の先には、小雨が佇んでいた。
肌の色をなくし、目を見開き、固まった小雨。
ああ、今この世で、最も会いたくはなかった。
「吉継様、具合が、悪いのですか…?」
何を言うつもりだったのだろう、それでも何かを言おうとこの口が開いた時、肺に取り込んだ空気がせり戻ってきた。
「がはっ、っぐぅ…!」
「吉継様…!」
籠を落とした小雨の指が、いとも自然に、包帯の巻かれていないこの肌へ重なりかけた。
「ッ触れるな!!」
喉元から絞り上げたその声に、部屋の空気だけでなく小雨の体までもが震えたのが感じ取れた。
指先は辛うじて肌と紙一枚触れあわぬ距離に。
しまった、そう思った時には、小雨の瞳はあまりに大きく見開かれ過ぎていて。
知っている、このようなとき、どうすれば良いかを。
「……なぁ、小雨、代わってはくれぬか。」
より大きく見開かれた瞳を見て、われの中の病が目を覚ます。
「ひひっ…苦しくて苦しくてなぁ、構わぬのよ…ぬしはよいなぁ……」
「……っ、ょ…」
「助けてくれ小雨、この皮を剥いで着てくりゃれ…この熱を取って浴びてくりゃれ…小雨。」
小さな嗚咽が聞こえた。
開かれた目からは、われが最も望むものがあふれる。
これでよい。
ぬしが我のため、我がゆえに泣くのが見られた。
ならばもう、これでよい。
「わか、り、まし、た…」
「…………は?」
われの辞書にはない言葉に目を開くと。
小雨の体が、目の前にいた。
そうして。
きゅむ、と、この崩れた体に腕を回した。
prev next