大谷吉継 | ナノ







季節のせいかこの所息苦しい。
体調や気概は悪くないと言うに、呼吸のしづらさが癪に障る。
今までにかようなことは無かったのだが、立て込む執務で七日ほど閉じこもったことも理由だろうか。

真上から胸の真ん中を手のひらでぐいと押され続けているような、意識の一枚外側にある圧迫感。
恐らくは寝た所で取れぬのだろう。
全く忌々しい。

三成にも身を案じた言葉をかけられることが増え、そのたびに飯を食わぬぬしに言われたくはない、眠らぬぬしに言われたくはないと繰り返せば、このところきちんと生活していると聞く。
……飯と言えばあの娘は、多少なりとも半人前に近づいたであろ



「…………」



思考の途中で、胸を圧迫する力に拍車がかかった。
ため息でどうにか息を逃がすも力が変わることはない。
この感覚は誠に考え事の邪魔をする。

もはや仕事にならぬので寝てしまえと布団に潜れども、最近は寝ることすらかなわぬことを失念していた。
寝ると言えば、あれはきちんと眠れているのであろうか。
毎晩見に行けば竈の側だの、部屋の隅だの、奇妙な所で眠りやる故。

まあ起きれば山菜だ何だと女中に連れ回される身、案じることなど何も無かろ。



「……全く……」



胸へかかる力が三倍に増えた。
このまま死ぬのかも知れぬ。





それでもどうにか忙しない時期は過ぎた。
胸の圧迫でろくに眠れずにいたが多少は治るであろうか。
しかし一息ついたのが災いか気の緩みが災いか、何を考えたかその体の不調を三成に漏らしたのが間違いであった。



「吉継君、時期も落ち着いたし何日か静養したらどうだい?
僕が休んでいる間に君にはずいぶん仕事をしてもらったからね。」



三成からこの軍師殿へは全く話が筒抜けるのだ。


「…軍師殿、気遣いは有り難いが、たかが胸の不調よ。」

「その症状はこじらせると厄介だと聞くよ。」

「軍師殿もなられたことがおありか。」

「うーん、僕は多分無いけれどね。
ただ人伝には有名な話だから、効く薬を後で届けよう。」

「…かたじけない。」



断ることをさせない流れの作り方が実に巧みよ。
もらえる休みならばもらっても損は無かろ、と仕方なくその言葉を受けることにした。


あちらこちらに書が積まさった自室の布団に戻るも、日も未だ高い故、眠ることもかなわぬ。
大抵のことは横になれば幾分ましになるはずであるのに、はて、さっぱりこの息苦しさが薄れることはない。



 

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