大谷吉継 | ナノ







昼過ぎ、城の廊下を進んでいる最中にふと目をやった先の森に、あれの姿を見つけた。
顔がはっきりと見えやる程近しいが、立ち並んだ廊下の柱が上手く隠しているのかこちらには気づいておらぬようだ。

すぐ側の女中としゃがみこみ、どうやら山菜の取り方でも教わっていると見える。
しばらくそうしていた後、小さく手を振りながら女中が森の奥へ歩み去った。
くれぐれもお気をつけて、そう口の動きで読み取れる。

成る程、手分けをして取ることにしたらしい。



「…しかし呑気よな。」



果たして何が楽しいのか、にこにこと花でも摘むかのように手を動かす。
これは何、これは何よと口ずさみながら。
その姿を見つめていればなぜだか不思議と笑みが出て来やる故、むくむくと湧き上がったやましい心が悪い癖を持つこの右手を動かした。

背に浮く数珠を一つ外へ出し、ふよふよ小雨の元まで操った。
屈んでいる当人の周りを幾らか漂わせれば、すぐにそれへと気がつく。



こんにちはー



…はて今あの玉へ挨拶したような、いや口の動きからしてそうであろ。
そう言えばあれは物が生きているかのような頭と振る舞いを持った娘であった。
近づけた玉を何の疑いもなく撫で、辺りをきょときょと見渡しこの数珠の持ち主を探しやる。

生憎われは柱の死角におる故見つかるはずが無いが、それ故にその玉が迷子とでも思ったらしい。
またその表面をよしよしと撫でる。
その手からすり抜け頭上へ浮き上がると、つられて見上げた小雨の額にごちりと落とした。



たっ



弾かれた額を抑えてその場に座り込む。
小さな悲鳴が聞こえた気がした。
捕らえようとした腕を笑みながらかわし、後ろに回っては小突き、視界から消えては落としを繰り返してみれば、いい加減に頭に来たのかがばりと玉を腕に抱え込んだ。



まったく わるいこ



言うても分からぬはずの物にそう呟き、腕から抜け出ようと動いてもしかと抱きしめて離そうとせぬ。
そうくるならば仕方なし。
そのまま玉をゆっくり浮かせれば、小さく悲鳴をあげながら足をじたばたさせていた。

やれ愉快愉快。





「ああ、吉継君。
何を見ているんだい?」



すぐ横に現れた気配にすぐさま数珠を下ろし、視界を上へと移した。



「…われは空が気になる性分故、星でも降らぬかと。」

「君は本当に星が好きだね。」



軍師殿も空を見上げたせいもあり露呈せずに済んだ。
いつだったか黒田がわれと軍師殿は気配無く近寄るときがあり恐ろしい、とのたまっていた記憶がある。
こういうことか。

世間話とこれからの軍議について二つ三つ言葉を交わした後、それじゃあ、と別れる際に。
ふと軍師殿が振り返った。



「そう言えば君の数珠、今日は一つ調整中なのかい?」



は、と気づいて外を見やったがすでに森には人っ子一人おらず。
どうやらさらわれました、そう言えば、ご愁傷様と笑われた。



 

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