「刑部、最近半兵衛様の所の娘と良くいるようだな。」
「ぬ?
……嗚呼。」
飯時、久方ぶりに連れ出した三成にそう切り出された。
これの口からそのような話題が出るとは思わなんだが、軍師殿の家の者となればまた話は別であったか。
「なに、世話役の暗がな、このところ面倒を見れておらぬのよ。
それ故仕方なしにな。」
「黒田め…刑部に手をかけさせるとは…!」
「ぬしは飯を食うことに専念しやれ、暗にはわれから言うておく。」
小雨がこの城に馴れてきたために黒田の役割も晴れていらなくなったというのは軍師殿から聞いていたが、まあ今は失念していたとする。
当の本人の黒田は今頃、空いた時間でも使ってまた何かを企んでいるのだろう。
あの幽霊の話をして以来は顔を合わせていない。
生き霊。
口に出せばまさにその通りの、子兎の生き霊。
それは夜に泣くことをやめた。
理由は定かではない。
その代わりなのか、昼にわれに遊ばれて泣くことが始まったが。
それでも夜に見に行けば部屋の隅なり、竈の側なり、どこかしらでは眠りにつけているらしく。
「…とり憑かれたか?」
今度はこちらに眠れない夜が増えたというのは、真にあの場所に幽霊でもいたのであろうか。
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