さて、人間が持つ最も柔い部位はここではなかろうかと頭をよぎる。
ふにりふにりと指を押し返し、これを餅と称する者がいるのも頷けた。
それにしても。
「…よう伸びる頬よのお。」
「い、いひゃいですいひゃいですっ…!」
われは何をしているのだったか。
すっかり柿を与えきって以来、小雨の中でたまったそれを一日一つずつ食べる楽しみが生まれたらしく、それをなるべく妨害することが日課になりつつあった。
頬を抑えられれば人は物を食べられぬと気づくのに時間は要したが、分かってしまえば何ということはない。
つまんだ先から逃げそうな肌を更にきつくつまめばすでに涙目で、喉奥から笑いが零れた。
わたわたとたった今口に運ぼうとしていた柿を膝に置き、われの手に手をかけ引き剥がしにかかる。
「駄、目、です、私は柿を食べるんですっ。」
「はて何も聞こえぬなァ。」
「聞こえてます、それは聞こえてます!
この手が、この手がいけないのか…!」
「そうよ。
加えてぬしのほほも誘いやる故、われ一人のせいではあるまいて。」
「……『せいへき』というやつですか?
っいひゃい!」
どこでそのような言葉を覚えたのか、一度離した指が再び牙を剥けば世にも哀れな声を上げた。
今日は泣かぬか、惜しい。
この所この体の機嫌がすこぶる良いのは、大方黒田に代わる遊び道具を見つけたからであろ。
「よ、吉継様も一緒に食べましょ、ね?」
「皮ごとは好かぬぞ。」
「ちゃんと剥きますっ。」
ならばよし、と手を離すと急いで包丁を取りに行った。
毎度からかいの途中でこう言い出すのは知れているため、この言葉が出るまでは頬を離さぬ。
そそっかし故、目の届かぬ所で刃物を使うなと言ってみれば、きちんと皿と包丁をこちらまで持ってきて横で剥くことを覚えた。
やらせて見れば存外器用で、するすると包丁を扱える所は目にしていたが。
「わあ。」
毎度綺麗に剥ける度嬉しそうに笑みやるので、その無防備な額を強く指で弾くと小さく叱られた。
叱られようと指が勝手に動いたこと、直す気などさらさらない。
それでも切り分けた柿を食べる頃には機嫌が収まっており、よせば良いものをそれを見たこの指が二度三度といじめやるので、すっかり柿を取り上げられた。
ので数珠で離れの部屋の中を追いかけ回せば泣いた。
よしよし。
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