大谷吉継 | ナノ





ごめんね、とおずおずとその目を見つめる。
だって本当にそうなんだ。

刑部がいるなら絶望しない。
刑部といるなら不幸じゃない。
私は刑部が好きだから、どんな形でも近くにいられたらそれだけで幸せ。
まあそれは、こうして閉じ込められてから気づいたことなんだけど。



「…でも刑部は、それじゃ駄目なんだよね…」



困ったように笑ってしまう、ああ笑っちゃ駄目なのに。
絶望から程遠い顔なのに。
投げるように私の顎から指を離し、苦い物を見るように目を細める。



「われを憎め」



一度私から離れた指が、そのまま喉元へ伸びた。
ざらつく包帯の感触を感じたや否や、指先が喉の一番柔らかい部分を締め上げる。
とたんに空気を口が取り込まなくなり、声にもならない声を発した。



「われを嫌え。他のものたちのように毛嫌い、蔑み、醜悪な生き物を見るようにわれを見よ。われといることに絶望し、われといることを不幸に思え」

「っ……!」


飛来した強い頭痛に意識が飛んでしまいそうになっても、私は首を力の限り横に振り回していた。
声が出ないと理解していても口がその名前を呼ぼうと動く。



「われを慕うな、思うな、好くな、近寄るな、話しかけ、見つめ、耳をすませ、笑いあい、受け入れ、認め、身を委ね、愛するな、愛するな、愛するな…!われに…われに、幸を、寄越すなぁ…!」



見る間に苦悶の表情へ変貌した刑部を朦朧とした意識で見つめながら、尚もかぶりを振り続けると、歯をくいしばって両の手から私を離した。
突然制御なしに入り込んできた空気に対処できず、床に倒れこみながらむせてしまった。
わずかながらに溢れた涙を、気づかれぬようそっと拭う。

本当は知っていた。
刑部が私と親しく接してくれる度、空に向かって悩むことが多くなっていたことも。
知っていた。
この世界を憎み、呪い続けることだけが今までの彼を支えてきていたということも。
もしもそれを無くしたら、何かの間違いで自分の幸せを認めてしまいなんかしたら。



過去の自分の全てを間違いにしてしまうから。





「刑、部…」

「…………」

「…私を、殺して良いんだよ…?」



幸せになれないと悟ったあなたを幸せにしたがった私が、どうしてあなたを嫌えるだろう。
私は世界中の誰が何と言っても、刑部にはその権利があると思った。




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