大谷吉継 | ナノ





「どうして幽霊には足がないのですか?」



至極真面目な顔で真横に座る小雨から問いかけられた。
とりあえず手元の書を閉じてそちらに向き直り、私は幽霊は歩かないから足が退化するんだと思います、と述べた小雨の見解を切り捨てておく。



「はてな、いくつか説はあるが。しかしなァ……」



ちらりと二人でどこぞの墓石に腰掛ける吉継の足元を見た。
少うし透けてはいるけれど、まだまだ実体のある、おぼろげな足を。



「…あやかしのわれに問う道理はなかろ」

「そうですよねえ…」









*暁月夜に出逢ったら*









自分は何百年も前から人の魂を失ったあやかしである。
ふらりと城内のどこかに現れ、誠実な態度と知識を以ている者に知恵を貸す妖怪がいるのだと言われれば、それは自分の事だ。
担ぎ手のいない輿に乗ったそのあやかしが読み終えた書が、夜中にぽつぽつと廊下へ積まれていることがあるのだという。

今のところ実際にこの姿を知っているのは吉継の知る限り、知恵を貸しているこの城の軍師と、ここの城主の左腕。
そして今隣で神妙に悩んでいる、小雨だけだった。



「幽霊という、どんな人間にも姿を見せる種族の類はわれにはとんと理解できぬ」

「吉継様は人を選びますもんね」

「…選んでいたはずであったが」



幾百の年月も人と書のある場所を住処としたが、大抵一人か二人は良識のある知識人がいるもので、この城の場合は竹中半兵衛という男だった。
そうして何度も繰り返したようにその場所にある書を読む代わり、知識を貸した。
これでまたしばらくは読む物に困らないだろうと考えていた吉継に、その後起きる誤算は二つある。



「そう言えば石田様が、刑部はどこだ、たまには表に出てこいと」

「……しち面倒なことよ」



一つは自分がひどく純粋な中身を持つ者には姿が見えてしまうことを意識の外に置きすぎていたため、ここの城主の左腕に「見つけられて」しまったこと。
加えて向こうは自分が常世の住人ではないことを全く信じておらず、よくこうして一人の武将として扱われる。

そうして二つ目は。



「…吉継様、私の顔が何か?」

「……いや。若気の至りの記憶が過ぎってな」

「……吉継様の若気っていつなんですか」

「なに最近よ、ヒヒ」



二つ目はこの存在に、「見せて」しまったこと。
今思い返してもあれは事故であったような、それですらないような気がする。
ある夜中、普段から使われていない屋敷の離れから泣き声が聞こえれば、誰であろうと人ではないものを連想するものだ。




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