「吉継様…安全に作られた道具とは言え奥方様を捕獲しようとするのはおやめになった方が…」
「はて、何のことやら」
特技に「聞き流し」を持つ吉継に聞いてもらえる内容ではないと知っていたが、言わずにはいられなかった。
やはり聞き流されたとしても、しかしこればかりは。
「自分の屋敷に罠が仕掛けられていては小雨殿も気が休まらないでしょう」
「安心出来る居場所を大切になさる方なんですから」
「というよりそこに固持される方なんですから…」
「当の本人はどうした?」
「「「…………」」」
回想するなら吉継はつい先ほど小雨にあの吊してあった罠は何かと問い詰められ、身に覚えがない、間者が入り込んだかとしたり顔で言えばまたあっさり信じこんでしまって。
不安で仕方無さそうな本人に気づかぬ振りをしてどこかへ消えれば、もう頭の中は全く落ち着かず。
いつもの押し入れへ逃げ込んでしまった。
「やれ、また籠もったか」
押し入れの前まで来てみれば頑なに入り口は閉じられて、忍びでさえ嗅ぎ取れないだろうというほどに気配がない。
まるで物のよう。
「こうなる度に説得できるのは吉継様だけなのですから…」
「小雨殿がずっと籠もりきりでは困るでしょうっ」
「……小雨が出て来なんだら、どうなる?」
「それは……吉継様としか話さず吉継様にしか顔を見せず、押し入れから出ることもなく、というように過ごされるしか…」
「…………」
「(しまった……)」
―――――……
「開けてー!開けてー!」
「きゃああ小雨様のいる押し入れに釘が打たれているわ!」
「誰か!誰か!」
「吉継様ああああ!」
「われは知らぬ」
「今後ろ手に隠した五寸釘は何ですか!」
「長い間仕えながら分からぬか、呪い用よ」
「そんな察しがついたら嫌でしょう!」
急いで押し入れに打ち込まれた釘を抜けば、閉じこめられていた小雨が半泣きで出てきた。
何が起きたのかをしきりに聞くので押し入れの前に物が置かれ、開かなかったのだと取り繕った。
釘は没収した。
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