大谷吉継 | ナノ





あれでは駄目だ、とあの後の一日中、その体力を全て持って行かれたような動きをしていた小雨を見て考えを改める家臣達。
自分達にあるように小雨にも厳守しなければならない三ヶ条があって、その一つが「呼び出された場合は迅速に応じる」ということだ。



「小雨殿の性質も考慮して歯止めをおかけせねば…」

「ああ、基本だ」

「次に生かそう」



今日はどこからの来客もなく、調理場に携わる者以外は安穏と過ごせる日なので、そうそう吉継の悪癖が出るようなことも無いだろうと践んでいた。





「照り焼きー、煮つけー、ご飯ですよ」





庭にて井戸端会議をしていると、忙しい合間を縫って小雨が育てているひよこへ餌をやりにきた。
様子見なのか吉継も縁側まで出てきている。
まるで違いが分からないとこぼす吉継へ、小雨がこれが手羽先、少し大きいのが唐揚げとにこにこ教える姿が見られた。



「微笑ましいなあ…」

「全くだ」

「しかしあのひよこの名前だけはどうにかならないだろうか…」

「全くだ…」



それでも当人達は気にしていないと見えて、庭を好きに歩き回っているひよこ達をどのように回収するのか尋ねられると。



「そういうときはこんな風に…」



餌をぱらぱらと線状にまき、鳥小屋の入り口まで続けた。
すると一生懸命に餌をついばむひよこ達はその線の通り進んでいって、小屋に全てが入った所で入り口を閉めた。



「これで大丈夫。便利でしょ」

「………」

「刑部?どうしてそんなに鳥小屋見てるの?」



「……嫌な予感しかしないのだが」

「それがしも同じく」

「拙者も…」





その日の夕方、またぱたぱたと廊下を駆けていた小雨がふと一つの部屋に目を止めた。
なぜかその真ん中に柿がぽつんと落ちている。



「わあ」



柿、というだけで体が動いてそれを拾いに行った。
庭の柿はまだ実を付けていないはずで、それならばどこかからの貰い物だろうかと考え込んでいると。



「…小雨殿!釜の火が消えそうですぞ!」

「ええ!」



条件反射でその場から身を翻した瞬間、背後に重たい落下音が轟いた。
振動までが遅れて伝わり、恐る恐る振り返った先には。

竹で作られた檻が降ってきていた。



「な…え、何……」



ぱちくりと目を見開いた小雨はしばらくその場で呆然としながらも、手にしていた柿に気づけばハッと顔を上げ。



「…釜の火!」

(((そっちかあああああ!)))



ぱたぱたと調理場へ小雨が駆けていった後、どこからか響いた舌打ちは全員が聞かなかったことにした。




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