視線を追っただけでそれを何に使うつもりか見当のついた有能な家臣達は、とりあえずそれだけならば大丈夫だろう、と互いに言い聞かせた直後。
「ここは井戸端か?」
背後から響いた低い声に総勢で血液が凍る。
「す、すみません他愛のない閑談を…如何致しましたか吉継様」
「鎖を使いたい。あるか」
「………裏の蔵に御座いましたので後ほどお持ちを」
「いや良い、われが行く」
すまぬな、とゆうらゆうら過ぎ去って行く輿を見送りながら、これでもかと言うほど距離を取ってようやく。
「…やはり駄目だ」
「ああ駄目だ」
「全く持って駄目だ」
「お止めしよう、小雨殿の方を」
「よし」
満場一致で歯止めをかけることに同意した。
直接吉継へ止めに行ける人間がいないのかなどという言葉は、血の通う者なら誰も口に出せなかった。
とは言え、この時期の小雨は庭に調理場にと新しい食材の管理に忙しい。
あまりひとところに留まっていないので見つけるのも捕まえるのも難しく、ようやく見かけた時には大分時間が経ってしまっていた。
「小雨殿!」
「あ、はい?」
ぱたぱたと廊下を忙しなく駆けている途中に呼び止めた時には、すでに当主の部屋が目と鼻の先。
「あの、吉継様のことでお話が!」
「ご、ごめんなさい、今刑部に呼び出されてて…!」
「いい今はなりませぬ!実は吉継様が……」
「家臣の人達に決して耳を傾けず来いって言われてて…!」
「(読まれとる!)しかし、小雨ど――」
ぴしゃりと目の前で襖が閉じられ、一同が後悔を感じるよりも先か後か。
「………刑部、何そ……」
「作ったって、い……」
「…どこに!どこに付け……」
「…だやだ怖い怖い怖……!」
「やあああああ!」
(((遅かったか……)))
部屋へ助けに入れないため、小雨が解放されるまでに数刻要した。
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