「そら小雨殿、これがこの秋の最後よ」
「うわあ!」
「だああからどうしてお前さんはそうやってだなあ!」
「猛るな、騒がしい」
昨日の今日で最も多い数を持ちやれば、当然のように黒田が吠えた。
全く番犬代わりにならなるであろうか。
「小生が昨日言ったこともう忘れやがったか?」
「ぬしであるまいて、忘れるはずなかろ。ただな」
「あ?」
「ぬしが喜ぶことをわれがすると思うか」
「まっっったくその通りだよ…!小雨!んな柿捨てちまえ!」
「わあ、七つも!」
「聞いてくれ!頼むから!」
なかなか腹の据わった神経を持って、嬉しげに指折り数えている。
けれどやはり腕に抱えてみれば昨日と同じく、四つが限りだというのはとうに知っていた。
「吉継様こんなにたくさんありがとうございます。水場に運んで来ますね」
「どれ、われが手を貸してやろ」
「……待て、お前さん何か企んでないか?」
全く、悪い星の元に生まれたというに勘だけは冴えやる。
不都合な男よ。
「……何?太閤殿のやり方が逐一気にくわぬと!恐れ多いことを申すなあ暗、そうか天下も狙うと申すか…!」
「は、お、おい何言っていやが…」
「くううろおおだああッ!!」
「げっ三成!あの地獄耳野郎…!」
そら来た、太閤の使いよ。
全く妙に知恵を使おうとするが故こうなると言うに、懲りぬ男よ。
「秀吉様の御威光の下に生きながらそのような戯言を抜かすとは……!」
「小生はいいい言っとらんぞ!刑部の狂言だあんなもん!」
「黙れ!貴様には血の雨も生温い!来い!!」
何故じゃあああと叫びながら凄まじい速さで連れ去られる光景も、さすがに十何度目になれば見送る小雨にも余裕が生まれる。
「では行くとするか。今回は特別よ、ぬしごと運んでやろ」
「えっ」
瞬間目が輝いたが、慌ててそれを押し隠した。
この場合は全くもって隠せていないが。
「私、乗っても…?」
「それ以外に無かろ」
「い、いいんですか、重たくないですか」
「昨日のように今一度転ぶか?」
「ごめんなさいごめんなさい」
それでもどうにか柿を抱え終わった小雨を数珠で突き飛ばし、強引に座り込ませる。
しきりにこちらの身を案じていたが、輿が浮き出すとそのような余裕も消え失せたと見えて、しかと腕に捕まった。
「わ、…!」
「下を見れば目が眩もう、前を見よ」
「は、いっ」
その辺りの木よりも高く浮けば、腕を掴む力がいっそう強くなる。
人の体温。
それが何とも、落ち着かない、むず痒い。
落ちまいともたれる体があまりにもやわく、一体どこに触れれば良いのか。
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