わたわたと頭のを取れば膝に、肩のを取れば頭に、と遊び続けると再び黒田が怒鳴る。
「ぬしはやかましい」
「誰のせいだ、だ・れ・の・!」
「吉継様、今日はこんなにたくさん」
「もう収穫も終わるでな」
からかい目的で何度もこのような会話を繰り返すうち、小雨が妙に良い位置に合いの手を入れることを知った。
われを刑部と呼びたがっていることも、この離れの部屋でよく一人でいることも。
城の中ではめったに姿を見ない故、日頃は女中と過ごすことも知った。
「日に日に数を増やしやがって……」
「不服か?小雨殿」
「いいえ滅相も」
ねー、と抱いた柿に同意を求めるように声をかける。
以前はぶつかった柱に謝っていた。
変わり者の娘だ。
「あ、じゃあ厨房の水場で冷やしてきますね」
「おう、気をつけて行けよ。ただでさえ両手が塞がってんだからな」
「はーい」
が、そこに石段があることはすっかり失念していたらしいと見えて。
かろやかに踏み出したその足を、悪癖を持つこの手が軽く数珠で押し出した。
「っきゃ……!」
「小雨!」
黒田の方へ倒れ込むと予期していたが、胸元に抱いたそれを庇おうとしたのかとっさに足が体の向きを変え、ほとんどこちら側へなだれてきた。
「!」
輿を下げて膝元に受け止めれば衝撃で小さく叫びはしたものの、外傷はないと見える。
脅かすつもりがこちらが脅かされた。
「おい小雨!大丈夫か!」
「だ、大丈夫です…すみま、せ…」
何とかそう言いながら片手でわれの膝に手をつき体を起こした。
そうだ、脅かされたというならこれから起きることを言うのであって、とどのつまりこちらはこのような所に人をもたれさせたことなどなく。
「……あ、」
相手が身を起こした時にこれほど顔が近付くことなど、全く意識の範疇の外で。
更にあげるなら膝に置かれた手がずいぶんと脆く、弱々しいながらに熱を帯びていて。
小雨の瞳にはまる黒色に自分の瞳が映り、それが全く同じ色に感じてしまった途端、引き返せ、入り込みすぎたと、体が警鐘を鳴らした。
「ご、ごめんなさい吉継様…!どこか痛くないですか、変にぶつけたりしませんでしたか」
「……いや、なに、どうともしておらぬ」
「お前さんこそ何ともないんだろうな小雨」
「はい、私は全く…」
なら先に柿を置いてこい、と珍しく黒田が役に立つ指示を出し、小雨は慌てて厨房の方へ駆けていった。
「だあからあんなにたくさん持ってくるなと言っただろうが。あれ以上増えたら小雨一人で運べなくなるぞ」
「左様か、左様か……われは城に戻る、ぬしほど暇な身でもあらぬ故」
「お?今日は早いな。帰れ帰れ、もう来なくて良いぞ」
入った道は戻れぬ。
ならば今までと等しく、壊してしまえば良いのであろうな。
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