この病は業の病と、幾人もの人間に囁かれた。
前の世で一体全体何をやらかしたのか、その報いが今の世に引き継がれたのだと、自ら己に言い聞かせたこともある。
行き場のない怒りと不条理の狭間で、不思議と納得してしまっていた。
前の世が自分と同じような人間なら、することは呪いか悪巧みか、それ以外に無いだろうと知っていたから。
そして今の世も。
「……刑、部…?」
どうにか小雨が目を開く。
「冥府の役人にでも見えたか?」
「うん……」
「これこれ」
どれだけそうして眠っていたのか、直接触れた肌はうっすらと冷たさを帯びている。
微かに開いた目を再び閉じかけるも、その手の感触を頼りに何とか起きようとしているらしかった。
「ん…刑部がいるなら……夢…?」
「…そうさな、夢よ」
「そうだねー…」
そうして笑って、おかえり、と呟いた。
頬へ添えた手に力がこもる。
もしも誠に、これが業の病なら。
自分は次の世も、その次の世も、永久にこの病を受けるだろうか。
来世のために善行を積むという選択を、あまりの不条理さに選ぶことの出来なかった自分の何が罪なのだろうか。
「……刑部?」
巻き布ごしに額を重ねてきた吉継へ、小雨は静かに目を開いた。
「…何、夢見ついでに呪いでもかけやるかとな」
「わあ…せっかくなのに…」
「ヒヒ、哀れよなぁ。そら次の世も、われに見つけられる呪いをかけてやろ。次の世も、その次の世もな」
それを聞いて、小雨はたまらずと言った感じで微笑んだ。
「その呪いは前の世で私がかけちゃったから、効かないよ」
忘れちゃったの?と額を合わせたまま小さく舌を出した。
ほら舌もある、と。
吉継はしばらく堪えるようにうつむき、それでもどうにも耐えきれないのか、遂に口と目の端を笑わせた。
「ぬしの冗談は、笑えぬのよ…」
「笑ってるよ」
「ヒヒ、気のせいよ……キノセイ」
ああこのままここに留まるか、連れ去ることが出来たならと両頬に添えた手を見て思う。
けれど口に出ていたらしい。
「これは夢なんだから、無理だよ」
「…そうよな。そうであった」
「帰ったら髪を切ろうね」
「好きにしやれ」
そうだ文をこの相手と交わしたことがなかったのは、先に自分がここへ来てしまうからだと夢見心地に思い出す。
小雨が本当はいつから目を覚ましていたのかを考える途中で、頭は柔らかい霧に包まれていった。
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