「刑部、酷い熱が続いたんだよ。何の夢見てたの?」
「取るに足らぬ…昔の夢よ。三成、ぬしもおったわ」
「そうか」
「黒田もな」
「黒田…!刑部の際に夢に現れるとは…!」
「黒田さんはそれさえも許されないんですか…」
「ひ、ヒヒ」
夢の続きを知っているなら、こちらを現としても良いだろうか。
それとも同じことだろうか。
(吉継様は、なりたいものはないんですか?)
(…われか?そうさな…)
(くううろおおだあああ!逃げるなあああ!)
(…ひとまずあの尖った男をどうにかするのが先よ)
(ああ…)
「小雨、刑部の氷嚢を取り替えろ」
「はい、どうぞ」
「…なぜ私に手渡す」
「何だかやりたそうでしたので…」
「やりたそうでない!決してやりたそうでない!」
「刑部体拭く?」
「(これはこれで気性が丸すぎよな…)」
額に冷たい物が置かれた感触を味わいながら、それとなく額に手をやり、指の隙間から二人を見上げた。
もう離して良いと告げ、ようやくどちらも腕から手を離す。
子どもか。
そう言いかけた。
(吉継様は、なりたいものはないんですか?)
「…われは、」
揃ってこちらを見る笑顔としかめっ面。
昔から決まっていた、そのようなことなど。
なりたいものなどきりがない、あるとしたらもっと、何よりも前の始まりに戻って。
「刑部?」
「どうかしたか刑部」
あまりに多くが足りぬわれは。
ぬしら二人に半分ずつ混じりて生まれて来られたなら、良かったであろうに。
さすればどちらも調度良く、何の尖りも欠けも丸みもなく、平らかに生きて行けたに、違いあるまいに。
なあ。
「…いや、戯れ言よ。医者を連れて参れ、薬を出させる」
「うん」
「刑部、貴様はまだ休め。熱も下がりきっていない」
「はて、再び寝たら次こそ引きずり込まれるかもしれぬが」
「案ずるな、まだ死ぬ許可など出していない。何度でも引きずり出してやる」
「良かったね刑部」
「こちらの岸にも鬼がおるな……」
薄く、薄く笑いながら。
また闇より暗いこの世の床に横たわる。
それでも眼前の鬼が二匹とも、喜ばしそうにこちらを眺めやる故。
彼岸までの付き添い人にするにはまあ申し分なかろうと、なぜだか幸を感じてしまった。
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