大谷吉継 | ナノ





自室で書を開いていると、掃除に出ているはずの小雨の足音がパタパタと廊下から響いてきた。



「ぎょ、刑部、刑部ー」

「どうした」

「助けて……」

「ぴよぴよ」

「ぴよぴよ」

「!」



ぞろりぞろりと来るわ来るわ、五羽の小さなひよこが小雨の後ろを懸命に追ってきていた。
以前布団で孵してしまった雛達だ。



「料理中も掃除中もこんな感じで……」



小雨が腰を下ろせば膝に乗ったり手に乗ったり、大した懐きようだ。
どうやら母親と認識されてしまったらしい。



「ヒヒ、からりと揚げればよかろ」

「でもこの子達身が少ないし、刑部にも油っこい物は…」

「検討するな、冗談よ」

「おい、刑部」



その時がらりと部屋の襖が開けられ、ちょうど泊まりに来ていた三成が入ってきた。
室内に小雨がいたので出直そうとしたが、小雨に取り巻く黄色い物体に視線が奪われて再び襖を掴み損ねる。



「あ、三成さん。ひよこいりませんか」

「……食うには身が少ないだろう」

「そうなんですよねえ」



今この場で最も血も涙もあるのは自分かもしれない、と自然に思えた吉継だった。



「これはどうした」

「卵を布団で温めたら孵っちゃったんです。そうしたらついてくるようになって…」

「布団の匂いでも覚えたのかも知れぬな」

「でも刑部の布団で孵したし…」

「……小雨?初耳だが?」



しまった、という顔の小雨の頬を引っ張って仕置きをしておく。
その間ひよこ達は三成の膝から腕を登ろうとしては払われるのを繰り返していた。



「やれ、飼うなら名でもつけるか」

「ふん。一、二、三、四、五で十分だ」

「でも少し寂しいですよ」

「笞、杖、徒、流、死でよかろ」

「ち、じょう、ず……それ何?刑部」

「異国の重罪人への刑罰よ」

「刑部の役職発揮しすぎだよ……」



せっかく鳥なんだし、と一羽を両手に乗せて。



「甘辛、手羽先、唐揚げ、煮付け…」

「それは意味としてはわれのと大して変わらぬが」



ひよこ達の名前は堂々巡ってさっぱり決まらない。
あれだと言っては却下され、これだと言っては却下され。
けれど目の前で自分の細君や友人がきちんと笑っていることが、多少奇妙ながら微笑ましく映る。



「刑部、どうかした?」

「…いや、しておらぬ。そこまで懐いたのなら育つまで後を追わせればよかろ」

「わあい」

「鳥の羽に弱い体の者が時々いるが、貴様等は大丈夫なんだろうな」

「はい、これといって特に…」

「げほっ…」

「…………」

「…………」

「…私室内でなく庭でこの子達飼えるか聞いてきます」

「なら私は木で鳥小屋を作る」

「これ待て、待て待て」





最近何だか。

綺羅綺羅しい。


 

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