「見ぃつけたぞ刑部!今日という今日は小生に説明しろ!」
「…なぜぬしがここにいる?」
そろそろ夕暮れ時にさしかかろうとする空模様。
庭を散歩中ながら、逢魔が時がくる前に屋敷に戻ろうと足を向けた小雨と吉継の目の前でこれでもかと言わんばかりに門の扉が弾け飛んだ。
そこから現れたのはなんと大して仲の良くない同僚だった。
「小生のやることなすこと全部秀吉にチクリ済みたぁどういうことだ!?」
「家臣の定例報告はわれの役所よ、不満か?」
「全っ部悪意的な解釈されて報告されたら不満どころの話で済むか!」
「…待て、さては無断でやってきたのではあるまいな」
「無断も無断、大無断だよ!秀吉の奴らに言ったって理解はされないだろうからな!」
それを聞くと、やれやれと吉継が膝へ手を置いた。
「…それがぬしの暗たる所以よ」
「ああん!?」
「頭を動かせ。無断で太閤殿の城を飛び出した、加えて執務中にとなれば、ぬしの未来など一つしかなかろ」
そら、と空中を手で仰いだ。
途端、後方から地鳴りのような揺れが響いてくる。
「な、なん……」
「くううろおおだああああ!」
「げえっ!三成!」
凶王の名が喜ぶほどの眼力でこちらへ一目散に走り抜けてくる。
察した吉継が小雨を輿の上まで持ち上げた瞬間、凄まじい滑り込みで眼前までやってきた三成のせいで黒田一人砂煙の被害を受けた。
「黒田!貴様執務の途中で秀吉様の城から飛び出すとはどういう魂胆だ!答えによっては今ここで斬り捨てる!」
「お、御前さんとて何でこんな所にいるんだよ!執務はどうした!?」
「ふん、秀吉様は貴様を捕らえるのに数日間の許可をお与え下さった。同列にするな下衆が」
「…そいつは体よく休暇を与えられたってぇことじゃ」
「っ秀吉様からの崇高な使命を愚弄する気かあああ!斬り捨てる!良いな刑部!」
「待て待て待て!お前さん友人の嫁さんの前で人を斬る気か!?」
「生憎だが三成、われの庭の土がそのような血を吸いとうないと懇願するでな」
「ふん…それもそうだな」
「納得するのそこなのかよ!」
やれやれと輿から小雨を下ろし、準備する夕げの数を増やしてくるよう伝えた。
もう日は沈む。
泊めることは明白になりそうだ。
「やはり逢魔が時は厄介事が飛び込むわ」
「元凶は誰だ元凶は!ったく…お、久しいなあ小雨」
「ご無沙汰してます」
「しばらく見ない間にちゃんと嫁さんらしくなるもん…」
「刑部の細君にっ手を出すなあああ!」
「頭撫でただけだろうがああ!なぜじゃー!」
「全く…」
「ふふふ」
騒々しい。
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