朝げや夕げの支度をするのはかなり時間と労力を使う。
多い品を作ろうとすると二つも三つも竈に火をくべなければならないし、それを消さないように料理をするのも難しい。
いくら何人かの女中が助けに来てくれたとしても、この時間帯の小雨は大抵てんてこまいに動いている。
「…ここにいたか」
「あ、刑部!もう起きて大丈夫なの?」
袖をくくって味をみている途中の所で、吉継が調理場の入り口に浮いていた。
曲がりなりにも病人なため城主でもここへ入ることは出来ない。
「半日は寝たであろ。心配はいらぬ」
「そっか、あと半刻くらいで夕御飯持って行くから」
「ああ」
十五分後。
「この野菜は明日用だからこっちに…よいしょっ」
「小雨、寝てる間に言伝を頼まれてはないか」
「言伝、は、ないよっ。文なら机の上にあるからね!」
「あい分かった」
十分後。
「うー、ご飯は時間がかかるなあ…ああ煮物の火、煮物の火!」
「小雨、包帯は上から三番目の引き出しに移った故。忘れるな」
「あ、うん!」
「いや四番目であったか」
「えええどっち!?あ、女中さんその火弱めてー!」
五分後。
「小雨、実はな」
「待って待って刑部!お願いだから今は待ってて!」
寂しい。
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