「そのような稀有な人間は滅多におらぬであろ」
「でも『滅多に』はいるんだよ、そういう人」
「…ぬしの話は相も変わらず根拠がない」
言われると思った。
思ったけども、答えなかった。
刑部は言葉が上手だから私なんてすぐ丸め込まれてしまうだろうし。
「いつの世も多数の言う幸が人の幸よ、逆もまた然り。多数の言う不幸が幸だなどと言うのは筋が通らぬ」
「通ってないのが刑部じゃない」
そう言うとさすがに目の前の人の不幸大好き人間が黙った。
それがちょっと意外で、でも少し笑ってしまった。
「そんなもんだよ。きっと刑部が思ってるより、人はわけわかんなく出来てるよ。幸せが不幸せだったり、不幸せが幸せだったり」
「だって私は幸せだもん」
腕を回した刑部の喉が動くのを感じた。
私はただ、眠たさ故にこんなことを口走ってしまったように見せるためにくぐもった声を出す。
「…今日は刑部と一緒に寝てもいい?」
「…やれ分かった、好きにしやれ。不幸なのはこんな嫁をもらったわれの方か?」
自嘲気味に笑いながらも、私の背に手が添えられた。
そうしてぽつりと耳に届く。
「…われも訳の分からぬ作りをしているらしいのなら、似合いよ」
それを聞いて私は少しだけ目を見開き、そしてようやく閉じることが出来た。
私は窓枠に背を向けていたから、この身体を抱える刑部からはきっと外の星空が見えているんだろう。
多分まだ刑部の求めているような屑星はやって来ない。
綺羅星になれなかった、もしくは死んだ、哀れな成れの果ての星の屑は。
己と重ねるその星は。
「…屑星は好きか、小雨」
「うん、すごく好き」
「……そうか」
そら寝るぞ、とけしかけられて私も布団に潜り込んだ。
隣に刑部が並んだのを確認してから、こてんと頭をもたげる。
「…物好きな奴もいたものよ」
そんな刑部の呟きは聞かなかったことにして、またうつらうつらとまぶたを閉じた。
物好き度でいったら刑部も負けてない、とは明日言ってみようかと思う。
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