大谷吉継 | ナノ





「ふ、っ……」



固く薄いものが呼吸を遮る。
押しつけられた刑部の唇はそれでも、それ以上のことをしようとしない。
ただ何かを確かめるように、何度も何度も唇に重ねてくる。

知っていたのに。
刑部はこれ以上深い口づけを絶対にしないって。
自分の体の影響を決して私の体に持ち込まないようにって。
知っていたのに。
泣いてしまった。



「ぎょ、ぶ」

「……」

「ぎ…ぁ、やっ」



刑部の口元が首筋へ移動した。
私の口を離れたのでべろりと舌が筋をなぞりゆく。
肩、鎖骨、そしてそれから。



「ひ、ぅあっ!刑部やだ、そこやだ!」

「……すまぬな」

「なん、で…ぁ…つっ、」

「われはこういう生き物ゆえ」



密やかな指先がそこにあることを私は全く気づけていなかった。






「こうするより他にぬしを愛せぬ」






「ひ、やぁあっ、刑部、ぎっ……あぁあ…っ!」



体が半分跳ねると同時に、刑部が再び唇に吸いついた。
突然呼吸が出来なくなって、反った背のまま刑部の肩にしがみつく。



「んっ、ふ……―――ッ!!」



直後、あんまり大きすぎる刺激に強く強く刑部の体に腕を回して自分の手足が暴れるのを抑えた。
叫びかけた嬌声は危ういところで口づけによって止められた。

体の震えが落ち着いてきた所でようやく刑部が口を離す。
ぐったりと呼吸を再開した私の髪をかきあげた。



「…すまぬな、今日は人払いをしておらぬゆえ。人に聞かせるのは酷であろ」



たどたどしい意識で、どうにか頷く。
嫌だ、こんな恥ずかしい声、人に聞かれるのは。



「…刑部…」

「…どれ」



結局は溢れてしまった涙も刑部が舐めとった。
ちゃんとざかざかと浴衣も前を合わせ、人らしい形にしてくれる。



「…ぬしの困り果てた顔は誠に愛い故、いつもやりすぎる」

「ほん、とに、やりすぎだよ」

「しかしこれがわれよな」



早々には変われぬ、ととても正直な答えをもらう。
けれどその時に視界に入った刑部の表情があんまりに悲しそうに笑っていて、私は頬に添えられた刑部の手を少しだけ握り返した。

嫌いって言ってごめんなさい。
そう口にしたかったけど、ついぞ出てきてはくれなかった。
けれど握り返した手を見て刑部が珍しく優しい人のように笑ったから、少しでも伝わってくれた、と思う。


 

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