こういうことはちゃんと心の準備が出来てからじゃないとどうしても駄目だっていつも言ってるのに、それを聞いてくれたことなんて片手の数くらいしかない。
「ぎ、刑部、離して」
「…体が熱い。ぬしの体が冷やこいのも一因よ」
「…もう冷やこくない、冷やこくないよ」
「さようか、なら…われの熱を下げたなら離してやろう」
また、そういう事を言う。
少しでも答えを考えた自分が憎らしい。
私は氷水でなければ神様でもない、このままの状態で私が刑部の熱を下げる方法なんて存在しないんだから、刑部の提案は決して叶うはずのないこと。
離す気がさらさらないんだ。
なのにこんな含みを持たせた言い方をする。
全く、全く、こんなことばかり悪い知恵を働かせるから、こんなにたくさん風邪を引くんだ。
こっちはこんなに心配しているのに、もう恥ずかしくて仕方なくても心配しているのに、全然そんなこと気にしないで苛めて苛めて。
きっとどうすることもできないと思ってるんだろう。
だってどうすることもできないんだもの。
「ぎょう、ぶ」
「ん?なん…」
あんまりあんまり悔しいから、腹立たしいから、少しだけ刑部を驚かせたくて、本当にそれだけで。
別に、誰かにうつせば治るからとかは考えてない。
本当、私にうつればいいとか、絶対に考えてない、本当だよ、本当。
そう自分に言い聞かせて、刑部の包帯がまかさった唇から口を離した。
刑部は私の望み通り目を見開いて、でもすぐに細めてしまった。
「…高ぶらせてどうする」
「だ、だって刑部がそういう、困ること、言うから…!」
じっとしていてほしいのに、ちゃんとお世話したいのに、いっつもそうやってからかっていじくって。
好きなのに。
好きだから。
その間をずっとぐるぐるとさ迷っているのはすごく苦しいのに。
いつもとの違いに気がついたらしい刑部が、まだ溢れてもいない目元を拭おうとする。
けどもう言いたいことが見つかりすぎた私はその手さえもかぶりを振って嫌がった。
「嫌か」
「や!刑部が悪い、絶対刑部が悪い!」
「……許せ」
「いや、だっ。もう刑部嫌い、嫌い…っ!」
そう言った瞬間、刑部が横になっていた私の体をすごい力で布団に押しつけた。
はだけた浴衣を直そうとするよりも先に、その両手ごと同じく布団に拘束する。
「ぎ……」
何か言葉を発するよりも先に、刑部は顔の下半分の包帯を一気に引き下げるとそのまま私の唇をふさいだ。
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