大谷吉継 | ナノ





「あ、れ?」



ふと見ると、私は横向に寝た刑部の胸の前にまで来ていた。
うとうととしていた時はまだほとんど畳の上で寝ていたのに、今はすっかり布団の真ん中だ。
ここまで寝相が悪かった覚えはない。

目を白黒させている間にも、刑部は頬に添えた手をそのままにしていた。
どうしたのだろうとその双眸を見上げると、何かを味わうようにゆっくり目を細める。



「…ぬしの身体は冷えておるな」

「え?」



そうかな、別段寒くもないけれど、布団をかけずに眠っていたなら多少冷えているかもしれない。
でもとっさに刑部の手を握り返した時、理由が分かった。
刑部の肌がこの上なく熱を帯びていた。



「わ、刑部、また熱上がってきてるよ」

「…さようか」

「氷水持ってくるから、ちょっと待っ…」

「いらぬ」



そう発するのと同時に、頬に添えていた手を背に回された。
何か声を出す前にぴたりと刑部の顎が首筋に乗る。



「刑部…?」



着物一枚ごしに背に添えられた手からでさえ熱が感じ取れた。
これだけの体温なら確かに私の体温なんて低い部類だろう。



「じゃ、じゃあ何かしてほしいことある?」



異様にどぎまぎし始めている自分に気がついてそう提案してみたけれど、返ってきた刑部の言葉は望みと正反対のものだった。



「…これをほどけ」



これ、が何かはすぐに分かる。
目の前にある刑部の胸元にまかさった包帯だ。
息が辛い、とまで言われてしまえばほどかないわけにはいかない。
けれど一旦身を起こさなければ、と説明しても故意か偶然か無視された。



「わ、かった」



寝たままほどくしかない、と覚悟を決める。
この頃には刑部の上の手は完全に背から私の後頭部へ移動していて、抜け出すことも難しくなっていたことだし。
幸い刑部はこちら側へ横向に寝ていて、枕のおかげで多少身体と敷布団の間にも隙間があった。



「…そのままでいてね」



そう呟いてするりと刑部の背に腕の隙間から手を回す。
…これは寝ている刑部にしっかり抱きついてる形になるけど仕方がないよね、緊急時だし、と言い聞かせた。

見えない背をまさぐって包帯の一端を見つけると、体一回りほどいて体と布団の隙間から出し、また一回りほどいて隙間から出し、を繰り返していく。
私も片腕しか使えないので遅々として進まなかったけれど、長い時間をかけて少しずつ終わりが見えてきた。



 

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