大谷吉継 | ナノ





ああ、そうだ。
一字一句と違わずに、そうだ。
この感覚の正体のように、言葉で表せぬものをさらりと発することがこれは上手い。
悲しいほどに上手い。
不確かなまま漫然と過ごしていれば、こうして布団に潜り込んでまで一人の雨を恐れることもなかったであろうに。



「…なに、この世に不要と見なされたなら、別の世に生きれば良い」

「…そんなとこ、ある…?」

「夜よ」



さらりと告げると、小雨が微かに笑んだのが空気の震えで分かった。
こんな重苦しい昼に見捨てられたのなら、違う場所に息づけば良い。
それも良いなあ、とうつらうつらした声が静かに帰ってきた。

そうしてふと思いやる。
明けと暮れの入れ替わった夜の世界と、そこに生きるわれと小雨を。
射すのは薄らいだ月明かり、弱々しい虫の声、それからひんやりとした風に水たまり。
人目をはばかることもなく気まぐれに散歩へ出かけては、夜が明ける頃に床につく。

小雨はきっと笑うだろう、夜しかない世が訪れてわれと二人きりになったとして、まるでそれが些末なことであるかのように。





「刑部はどこにいたって変わらないから」

「…そうさな」



こてん、とわれの腕へ頭を預けたまま、小雨が淵から意識を手離した。
目の前にあるそのかんばせへ手を添えたい欲求を封じ込め、今一時はこちらもそれに従うこととする。

安堵して意識を手離せたことなど初かも知れぬ。
横で眠るこれがあちらがわにもこちらがわにもいることを、知ったからだろうか。



(刑部はどこにいたって変わらないから)



ああ、それは間違いなく、
こちらの台詞だ。

そう頭で呟いたのが最後だった。










その日の夜遅く、小雨に手を引かれ、雨のあがった外へそぞろ歩きに出かけた。
想像した通りの夜の世は、なかなかこちらを歓迎しているようだった。


 

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