雨の日の寝しなはいつもこの感覚に陥る。
自分はこちらがわにいるのか、あちらがわにいるのか。
まだ現世に片足をかけている気もするし、もはや彼岸を見つめているような気もする。
そんな今にも再び飛びそうな意識を、かろうじてつなぎ止める現の感覚が左腕に残っていた。
小雨はこの腕を掴んだまま眠りに落ちたらしい。
「…まるで、童よな…」
まぶたを閉じれば浮かぶはずの闇がこの時は妙に灰白く、まるで光に擬態でもしているかのように思えた。
それでも、きゅう、と腕を掴む手に力が込められ、小雨がもっと近い場所にいることを知る。
こちらがわか、あちらがわか。
どちらにもいるのなら、われはこちらに未練を残さぬかも知れぬ。
「…ぬしは…」
口を動かせども動かせども、まぶたの一枚上にかぶさったような重たいまどろみは剥がれようとしない。
「…なぜ…雨の日は隠れたのだったか…」
己でも何の話か分からず、言葉をすっかり発した後でようやく会話の流れを思い出す。
雨の日はかまどなり何なり、小雨が隠れていたという話だ。
小雨からも、ぽつりぽつりと言葉が返った。
まどろみの淵にいるのは互いに同じらしい。
「…私の家は、いつも人がいなくて…特に雨の日は…」
遠くなり、近くなり、僅かでも意識を逸らせばたちまち見失いそうな声に耳を傾ける。
これの囁きは、雨音に似ている。
「…部屋にいなさいって言われて、そうするんだけど…することがないから畳に、いつも転がってて…」
目に浮かぶようだった。
ささめいた雨が降りしきる庭をぼんやりと見つめながら、着物の裾を投げ出して畳に転がる幼子が。
あるいは今と変わらぬ小雨が。
「雨は好きだけど、一人で転がりながら見るとたまらなくて…何だか喉の奥が…つん、てして…」
哀しくなる。
たまらなく侘びしくなる。
そうだ、なる。
そうして隠れたのか。
「うん…人のいるところに隠れて…部屋で一人になりたくなかったから、すごいところにまで隠れて…きっと、怖かったんだと思う」
「…ぬしは怖がりよ」
「そうだね、だからすごい…雨の日に一人でいることから逃げて…うん、なんか本当に、怖かった…」
きゅう、ともう一度、存在を確かめるように強く強くわれの固い腕を両手で握った。
「世界にいらないって言われてるみたいで」
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