大谷吉継 | ナノ





「…刑部!?」

「下ごしらえにしては時間がかからなかったな」

「え、まだ料理!?」



左様、と軽く膝上から体を突き飛ばされ、私の体は音を立てて背中から床に倒れこんだ。
後ろ手を縛られているため背が平らに床につくことが出来ず、反り返った形になることが苦しい。



「ほお、絶景かな」

「な、何す……うあっ」



刑部の手のひらが突きだされた私の胸を包帯の上から撫で上げた。
どうして、だろう。
一枚着衣の上からの方がより鮮明に刑部の手の形が伝わってくるのは。

着ていた小袖はもはや着崩れて羽織るだけの形になっていたけど、晒された胸は刑部が巻いてくれた包帯で隠れているのでそこまでの羞恥はなかった。



「刑部、も、もう巻いたよ?」

「そうよな」



楽しげに喉奥から笑う刑部の手が包帯の上を撫で回すので、身をよじって逃げようとしている最中、もしかしたら序盤よりももっと衝撃的かもしれない台詞を宣った。



「さて…ほどくとするか」

「!!!」



一瞬で体が固まった。
刑部の視線が、私で固定されていたから。



「刑…待って待って!」

「待たぬ」

「ええ!?」



包帯は巻いてからほどくまでが一仕事よ、と口元を歪ませながら顔を近づけた。
確かにそうかも知れないけど、私もそうしていたけど、でもこの包帯をほどかれたら…。
ほどかれたら…!



「し、死んじゃう!恥ずかしくて死んじゃう!」

「われはアヤカシと知り合いよ、死んだら呼び戻してやろ。観念して我に全てを晒しやれ」

「心の準備がないと無理……!」

「ヒヒ、そのような準備は認めておらぬな」

「ぅあ…!」



するりと背中にある包帯の一端に刑部の指が伸びてきて、思わず固まった。
ふるふる首を小刻みに横に振って見せても、同じ動作を刑部に返された。



「刑部やだ、そこやだ…っ」

「なにどれだけ足掻いても構わぬ。われはそれが楽しいでな」



にたり。
そう笑って。






「さ、泣き叫びやれ」






「っ!!!」



人払いがされた部屋一帯に、私の叫び声が響き渡った。


確かに、夜は長かった。





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