ちょっとぐらい痛いことなら我慢できるけど、に、煮られたり焼かれたり…とかされるのはさすがに無理かも…。
「つ、捕まったら私兎鍋になるの?」
「われは優しきニンゲンよ。そのような鬼畜な真似をすると思うか」
「人殺す物で追いかけ回してるのに鬼畜以外の何がー」
「おっと手が滑った」
「痛い痛い痛い!」
ゴンゴンと玉の一つが後頭部へ連打してきた。
裏庭へぐるり回ってもその速さは衰えしらずだ。
「安心しやれ。ぬしは普段包帯でわれを遊んでおる故…たまにはわれに遊ばれるのも悪くなかろ」
「わ、悪いよ!?包帯そんなことに使っちゃ…うわ前から!」
後ろから二つ、前から一つ飛んできた玉を屈むことで何とか避けて、屋敷の中に逃げ込んだ。
裾を翻して逃げる私へ、普段話しかけてくれる屋敷の人達も何事かとこちらを見ていた。
屋敷の中だと数珠も思うような連携を取れないようでこちらとしては都合が良かったんだけど。
「な、何だこれ!」
「吉継様だ!」
「うわあああ引き寄せられるうう!」
屋敷の人達も容赦なし。
これは駄目だ、関係ない人を巻き込めない。
玉に散々振り回されている人達の数を増やさないため、私は刑部の部屋から再び庭へ飛び出した。
「!」
飛び出した矢先の右手に積まさっていた桶の下へ反射的にもぐりこんだ。
この下に大きな台が置いてあり、そこにひと一人程度なら入れるなあといつも思っていた所だったのですんなり体がおさまる。
私を追って飛び出した数珠が、標的をなくしたためか減速して辺りをうろつき出した。
桶の隙間から覗きこむと数珠の一つと目…で良いのかな、目が合ったけど、多分刑部に見つからない限りは襲ってこないと思う。
「…刑部…?」
あれ、そう言えば今飛び出してきたのは刑部の部屋。
今まで刑部はそこの縁側から玉を動かしていたのに。
じゃあ刑部は今どこに…。
「見つけた見つけたァ」
「ひっ!」
その声がぞくりと背筋に響いた直後、周囲の桶が凄まじい突風で舞い上がった。
「きゃああ!」
踊る砂ぼこりと桶に咄嗟に座ったまま頭をかばう。
一瞬見上げた空には空中に幾つもの桶が停止していた。
一体いつから刑部は見張り場を上空へ移していたんだろう。
prev next