大谷吉継 | ナノ





いつだ?
慣れない作業のいつに間にこんな所へ巻きやった?



「すごく綺麗に巻けたんだけど…見る?」

「見えぬわ。何故そのような場所に力を注ぐか」

「えっと、本能っていうか…」

「…今すぐそこをほどくのとぬしの服の紐をほどかれるのとどちらが良い」

「ほどきます!今ほどきます!」



慌てふためいてほどき始める騒々しさを耳に入れながら、それを久しくぶりに感じるあの感覚をまた味わっていた。
そして。










―――――…


「…ごめんなさい…」



われの前で落ち込んだように頭を垂れる小雨がいた。

あれからああだこうだと宣いながら包帯を直させ、ふと終わりに外の空を見やると。
抜けるような青空が茜色に染まっていた。

そこから小雨の平謝りが始まる。



「ごめんなさい、刑部ごめんなさい、こんな、こんな長くかかってたと思わなくて…」

「…いや、われも驚きよ」



奇妙だ、昨日は遅々として空の色は変わらなかったというのに。



「うう、刑部お休みだから、あんまり時間取らせちゃいけないって思ってたのに…」



本音を言うともてあましている身分の自分にとってはむしろ都合の良いことだが、涙目になりつつあるのが面白い故にあえて伝えなかった。
笑ったり泣いたりと忙しない奴だ、それが愉快であるにしろ。



「安心しろ、われの貴重な時間が削れただけよ。ぬしは何も気にするな」

「うわああごめんなさいごめんなさい!」



おお泣いた泣いた。
ぽろぽろと透明な粒が頬を伝って落ちてくる。
われはこれが好きだ。

しかし小雨の心底の困惑っぷりに仕方なくそれを手の腹で拭ってやると、小さくしゃくりながらこちらをじっと見つめていた。



「全く奇妙な女よ」

「……呆れた?」

「呆れなどとうの昔に通り越したわ。いっそ…」







いっそいとおしい。









「…ぎょ、ぶ?」



ぱちくりと瞬きながらわれを見つめる瞳を覗いて、開きかけた口をつぐんだ。



「…いや、何でもない。夕げの支度をして参れ、われは昼を抜かして腹が減った」

「あ、うん、わかっ、た」



まだ微かにしゃくりが残るのに喉奥から笑ってしまった。
つくづく泣かせがいのある奴よ。



「…三成に休暇の礼でも述べてやるとするか」



たいそう気が晴れた、とでも付け足せばあの友人はひどく喜ぶことだろう。

休暇を何に使ったのかは、教えてやらぬがな。



 

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