しばらくその苦しむ様を観賞しながら、空いている右手で無防備な額を弾いて戯れた。
その度に小さな悲鳴をあげながらも両手を決してわれの指先から離さないのは恐れ入る。
結果としては左手の指先に巻かれた包帯を参考に何とか巻き終えていたが。
「よし、これで肩から腕はもう巻けるよ」
「左様か。まあ腰から足も似たようなものよ」
「じゃあ残りは上の半身が巻ければ完璧だね!」
「む?」
やるぞー、と意気込んですでに巻かれた包帯をほどきにかかった。
こちらの制止も聞きそうにないため仕方なく好きにさせるとする。
それでも人の触れぬ肌にそのぬくい手のひらが触れた時は妙な緊張感を覚えてしまった。
われとしたことが。
「上から巻いていくの?」
「ああ」
われの背後に回り、脇下から手を入れて包帯を両手で受け渡しながら器用に胸に巻いていく。
しかしその背後から両手を回し、包帯を受け渡すたび小雨の身体が背中に密着するのが、形容するなら…。
「…何か、後ろから抱きついてるみたー」
ゴィン!
「痛っ!」
つい無意識に数珠の一つで頭をはたいていた。
なぜかは分からぬ。
皆目検討もつかぬ。
しかしそれに懲りたのか、小雨が黙々とまた巻きだしたのでよしとするか。
「…刑部ー」
「……」
「…包帯の終わり蝶々結びにしても」
「懲りぬ奴よ」
「いたたたた!」
脇下から伸びた両手を思い切り前に引いてやった。
べち、と小雨の身体が背中へ衝突して、尚も引っ張ると背中に顔が押し付けられたせいかくぐもった悲鳴をあげる。
「ごめんなさい、しません!そんなことしません!」
「よく伸びる腕よのおー」
「ごめんなさいごめんなさい!」
悲痛な涙声が混じったので、しばらくそれを聞いた後にやめてやった。
ちなみに悪いのはわれではない、学習しないこやつよ。
そのようなことを多々繰り返しながら、どうにかその箇所も巻き終えた。
「どこか苦しいところない?」
「…まあ初めてにしては上出来よな」
「やった!あ、でも少し包帯ねじれちゃった所が…」
「何、多少奇妙でも構わぬ。注視する者もおらぬでな」
「頭の蝶々にも巻いたのも大丈夫?」
「ほどけ、早急によ」
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