大谷吉継 | ナノ





久しい距離にある久しいかんばせ。
包帯を巻き変えたばかりの右手を何気なくその頬に添えると、小雨は不思議そうな顔をしながらもその手を両手で握った。



「右手の包帯は?」

「…ああ、手伝いでも呼んで巻かせるか」

「私巻いてみたい」

「…何?」



思わずその目を見つめなおしたが、瞳の中に虚偽は見当たらない。
それどころか当人に至ってはこちらの動揺も戸惑いも何一つ理解していないようにも見える。



「ずっと巻きたかったの。良いでしょ?」



そんなことを、春のような笑顔で言うのだから。










「こんな感じかな」

「…まあ間違ってはおらぬ」



結局小雨の興味に押しきられ、首から右腕までの包帯を巻かせることになった。
無遠慮にこの肌へ触れる姿が世にも珍しく感ぜられるのは、あながち間違いではないだろう。
変色し、硬化した肌へ触れたがる者などそこらにいなくて当然だ。

しかし肩へ包帯を巻き終わった小雨が、そこへ顔をもたげたまま動かない。



「気分でも悪くなったか」

「ううん」



わりかし明るい声でそう返された。



「刑部はなんか懐かしい匂いがする。眠くなる感じの」



思い当たるものといえば薬か包帯くらいだが、懐かしいものではなかろうに。
肩へ包帯ごしに日光を浴びたような温もりが伝わる。
恐らくこれが人肌の温かさなのだろう。

それがどうにもいじらしく歯がゆく、さっさと続きを巻けと急かしてしまった。



「腕はすぐ巻けるよ。こうくるくる回せば綺麗に巻けるから」

「ほう、なかなかにして上手いな」

「やった。よし、このまま助言無しでやってみせる」



と勢いづいた直後、ぴたりと両の手の動きが止まった。
小雨の脳裏に疑問が沸いたことは節穴だろうがありありと分かる。



「…刑部、指ってどうやって巻ー」

「聞こえんなあー」

「ああっ、ちょっと待って教えて」

「助言はいらぬのであろ」

「うう…」



さも困った顔でわれの指先へ包帯を巻こうと四苦八苦する様は面白い。



「えっと指の向きがこうだから…」

「飽いたわ」

「あっ、わざと指動かさないで!」




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