トロンが外部の研究者と話し合いをしている貴重な平日の昼間。
彼の家族達は次男の部屋に集合していた。
ホワイトボードの前に席を設け、弧を描く形で座っている。
「じゃあ今年も始めるぜ。マリア、お前は初参加だからよく聞いておけよ」
「はい」
ただ1人、前に立って進行しているトーマスが手馴れた様子でホワイトボードに文字を書き込む。
『第2回 トロンの誕生日会議』
これをやるから集まれと言われた時は思わず笑ってしまった、とマリアが思い出してまた笑いそうな口元を隠した。
「料理とケーキを食わせるのが一番手間取るが、今年はマリアがいるから少しは気が楽だな」
「去年は大変でしたね……」
「そうなんですか?」
「はい、去年の今頃は、父様は復讐シーズンだったので。もう自分の出生に関わるものなんて目の敵にしてました」
「シーズン言うな、んな季節いらねえ」
ああ、と何となく理解する。
時々ミハエルが『ダークサイド父様』と言う奴だ。
クリストファーは『あの方の暗黒面』と言うし、トーマスは『闇トロン』と呼んでいる。
「父様ったら復讐以外の事を僕達がするのを嫌がるので、散々復讐にかこつけて祝いましたね。クリス兄様」
「ああ、『生まれてきたからフェイカーに復讐できる』と言い聞かせて父様にハッピーバースデーを歌ったものだ」
「確かに『復讐は体力作りから』と言わなけりゃケーキ以外の料理を食おうとしなかったな」
「あら……」
想像以上になごやかだった。
そして三兄弟がたまに見せるチームワークを、去年はここで使ったのかと理解してしまった。
「今年はそんな事も気にせず、盛大に祝えますね!マリアさんのケーキとシェフの料理と…あとはプレゼントでしょうか」
「……そこが問題だろ。今まではそれっぽい物を贈ってたが、今はもう『トロン』だぜ?」
はあ、とトーマスがため息をついてホワイトボードに数行書き足した。
1、酒類
2、ネクタイ
3、腕時計
「トーマス兄様、これは何ですか?」
「ああ?決まってんだろ、父親プレゼントランキングの上位は大体これだ」
「調べてるのかお前……」
「トーマスさんってマメなんですね」
「え!?調べねえのか!?」
途端に恥ずかしくなったらしく多少赤面していたが、無理やり押し通すことに決めたようだ。
激しく咳払いをして受け流し、ホワイトボードに向き直る。
「酒類…は飲まねえだろ。たまにワインを頑張って飲もうとしてるが途中で断念してるからな」
「マリアさん、一番飲めてどのくらいです?」
「ワイングラス半分くらい、ですね」
「『うん、香り高く深みがあって……おいしくない』が口癖だな」
「だから酒は無しだ」
キュキュッと1の項目に斜線が引かれる。
屋敷に似つかわしくないこのホワイトボードをどこから持ってきたのかは定かではない。
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