今朝は作る朝食が少ないため、普段より少しだけ遅くキッチンにやってきたマリア。
クリストファーは遠方の研究所に視察に行き、トーマスは泊まりの仕事に行っている。
トロンが好物ばかりの朝食を食べたがる度に口うるさく止めていた2人がいないので、昨日の晩からトロンにはくどくどとメニューのリクエストをされていた。



「フレンチトーストとオムレツとデビルズエッグとプリン……は卵食べ過ぎ、ですよね……」



そう思いながらついつい作ってしまった料理をも食卓に並べ終わった時、ふらりと1人の影が部屋に入ってきた。
その身長の人間は彼しかいないので、ミハエルが朝食に来たことにすぐに気づく。



「ミハエルさん、おはようございます」

「あ、マリアさん…」



返事をしたものの、その大きな瞳の中で視線が泳ぐ。
マリアを見て、時計を見て、足元を見て、またマリアを見る。
何かあったのだという事はすぐに分かった。
ミハエルが両手をきつく祈るように組み、胸の前で震わせているのだ。



「その、朝は少し忙しくて…遅くなってしまいました」

「そうだったんですね、トロンさんは?」



そう聞いた途端、大きな瞳が更に見開かれた。
その表情で大まかな自体を把握したマリアは、すぐにティーポットをキッチンに置いてから駆け寄る。
何も言えずにいるミハエルの手を引き、近くにある椅子に座らせた。



「トロンさんがどうしたんです」

「で、でも、兄様もいなくて…それで僕…」

「大丈夫です。絶対大丈夫ですから教えてください」



そう食い下がると、マリアを見つめるミハエルの表情が一層くしゃくしゃになり、下唇を噛み締めた。
そしてゆっくりと時間をかけて、口を開いた。



「……父様は、今朝から体調を崩していて…」

「えっ」

「多分、マリアさんが起きてからそうなったんだと思います。父様を起こしに行った時に見つけたので…」



確かに、自分が今朝ベッドを抜け出した時にはトロンは穏やかな寝息をたてていた。
具合が悪ければそこで気がつくはずだ。



「具合が悪いって…熱とかですか?」

「はい、それも、本当に凄い熱なんです。とっても辛そうで、ほとんど意識もなくて、僕は父様の名前を呼ぶことしか出来なくて、でも僕はとりあえずその事だけでもマリアさんに伝え、ようと…」



言葉が続いたのはそこまでだった。
後はもう、涙が溢れるのも喉に空気が詰まるのも同時で。
膝の上に置いた手のひらを固く握りしめ、ついに大粒の涙をこぼした。
マリアは近くにあったナプキンをとっさにミハエルに握らせ、その硬い握りこぶしに手を重ねた。



「ごめんなさい、ごめんなさい、マリアさんに心配させたくなくて…でもどう言ったら良いか分からなかった…」

「心配?」

「父様はトロンの体になってから、定期的に今日みたいな熱を出すんです。2ヶ月に1度くらい…長ければ3日も4日も熱が下がらない…っ僕達だけで今までは乗り越えていたけど…」



それはかなりの大事だ。
病の知識にはそれほど明るくないマリアでさえ、その異常さは分かる。
トロンが負っているであろう肉体的な負担も。





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