繰り返し繰り返し、同じ質問を兄様達にした事がある。
幼少期も、施設にいた時期も、そしてつい最近も。
「V兄様、僕達の母様は、どんな人だったんですか?」
そう聞くと決まって兄様は目を細めて、静かに僕へ微笑む。
頭を撫でて、膝を曲げて、僕と同じ目線になって。
「とても美しくて、優しい方だった」
そしていつも、それだけを伝える。
V兄様の口からそれ以外の言葉が出たことは無い。
W兄様のあやふやな情報の方が、まだ内容が多いくらいだ。
ねえ兄様、僕はそんな事が知りたいんじゃないんです。
母様はどんな声でしたか?
どんな風に話しましたか?
好きな食べ物は何でしたか?
父様と仲良しでしたか?
どうやって遊んでくれましたか?
デュエルは強かったですか?
V兄様とW兄様には記憶の断片があるけれど、僕の頭の中のパズルは真っ白な絵しか描かれていない。
例え兄様達からたくさんのヒントを与えられてもそのパズルは完成しないし、完成しても何も見る事は出来ない。
家に母様が映った写真は一枚も無かった。
父様が処分してしまったらしい。
幼い僕らのために、悲しみに暮れている暇はないからと、母様に関するものは全て破棄してしまったのだと言う。
それが父様のために必要な事だったのなら、僕はそれを責めることは出来ない。
だからこの質問も、父様にだけはしてこなかった。
そして僕も、なるべく母様の事を考えないよう心がけるようになった。
時々、街を歩く家族連れを見かけた時や、年に1度の母の日が来た時にやってくるこの寂しさだけ上手く押さえ込んでやれば、僕は平気だった。
平気な気がしていた。
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