豊臣軍 | ナノ


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「半兵衛、準備できました」

「うん、いいね。埃を吸うかもしれないから一応鼻と口元に布を巻いておこう。……ああ、目に塵が入ってしまっては事だ、目にも布を巻いておくよ。それから耳は――」

「おい半兵衛」

「何だい?黒田君」

「手鞠の顔が見えんぞ」

「……おや、少し布が多過ぎたかな」

「はいひょうふれふ、はんへえ」

「そうか、さすが手鞠だね」

「おい、大谷はいないのか。小生だけではつっこみきれんぞー」








*あの日の風景画*









戦が近づくとやらなければならない事が格段に増える。
ただでさえ日頃からやる事が山積みな豊臣の軍師は、目の前に控えた大きな戦のために自分の仕事を整理していた。
そうしてやるべき事とその順番をまとめ終えたその直後に。

猛烈に物置の掃除がしたい、と思ってしまった。



「この気持ちは黒田君にも理解してもらえると思う」

「…まあ身に覚えはあるがな。特にお前さんは体を動かさんからなあ、鈍るんだろう」

「ありがとう、こんなに都合の良い部下を持って僕は幸せだよ」

「こんなに理解のある友人を持って、だろうが!」



豊臣の敷地内に置かれている蔵は、小さいながらに堅牢で立派なものだ。
その見た目以上に収納力は抜群である。
城を建立した日に作られたその蔵に、今やどれだけの物が詰め込まれているのか考えると、いてもたってもいられなかった。

手鞠を呼ぶのは当然として、まだ人手が足りないと感じたので、こういう時は大抵黒田に声がかかる。



「ほら布を取れ手鞠。過保護すぎなんだよ、お前さんの主は」

「ぷはっ」

「……まあ効率を考えれば仕方ないね。さっさと済ませてしまおう」

「おう。手鞠、小生は右回りで行く。お前さんは左回りだ」

「了解しました」



よし、と半兵衛が手を叩き、蔵掃除が始まった。
薄暗い室内には三段も四段も棚があり、それら全てにみっちりと物が詰まっている。
一つ一つ取り出しては、外でござの上に座っている半兵衛の元へ運び出した。



「暗、埃をもっと取らないと半兵衛が吸い込むよ」

「お、確かにそうだな。しかしえらい数だ。今日中に終わればいいがな」

「頑張ろー」



半兵衛の元へ運ばれた品々は、その目利きによって即座に必要か不要か見極められる。
必要な物は蔵の近く、不要なものは別のござに移された。





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