豊臣軍 | ナノ


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はあ、と高い空を見上げながら、この国の軍師がため息を吐く。
無意識のうちに出てしまったものほど周囲に聞こえてしまうのはなぜだろう。



「どうした半兵衛、何を憂いでおる。」

「ああ秀吉…いや、大したことじゃないんだ。
ただ……」



と、自分達の立っている窓枠からすぐ下へ目線を動かした。





「いいええやああすうう!!」

「ははは三成、そう怒るな。」

「ふざけるな!
今日こそ秀吉様の素晴らしさを貴様に叩き込む!
止まれえええ!!」



庭先。
触れれば刺さりそうな覇気を漂わせながら凄まじい追い上げを見せる三成と、それとは対照的に朗らかに微笑みながら逃げる家康。
もう城に住むものにとっては日常的に見慣れた光景だった。



「またか。」

「『また』なんだよね…逆に仲がいいんじゃないかと言われるけど、鬼ごっこよりも思想的に仲良くなってもらいたいものだよ。」

「そうだな、こればかりは時間がものをいうやもしれぬ。
しかし半兵衛、先ほどのお前はこの程度の悩みで済むような顔ではなかったが。」



その言葉に一瞬驚いたように顔を上げ、そのうち参ったように笑った。



「君には何でもお見通しだね秀吉。
手鞠もそうだけど、君達の僕に対する観察眼には恐れ入るよ。」

「そう言うな、お前には適わん。
…我の耳にも城下の噂は届いているからな。」

「ああ…それなら話が早い。」



ふう、と再び息を吐き、この所町中に蔓延る良くない噂を思い出す。
それは国の象徴たる秀吉でも、その右腕の自分でもなく、意外にも吉継のものだった。



「百人の生の肝を食べれば病が治ると信じた吉継君が、夜な夜な往来の人間の肝を奪ってるっていう、恐ろしいほど事実無根な噂話だけど…人はこの手の情報操作に弱いからね。
だいぶ広まっているそうだよ。」

「七十五日で消えればよいがな。
大谷の耳には入っているのか?」

「それは勿論。
まあ本人は気にしていない素振りだったけれど、いい気はしないだろう。」


「鬼が来やるぞ、鬼が来やるぞ。」

「来るなー!!」



噂をすれば、すぐ目の前の渡り廊下を手鞠が凄い速さで駆け抜けて行った。
その後ろをふよふよといつもの輿に乗った当人が追いかける。
見る限りこちらも鬼ごっこのようだ。
普段から遊んでいる二人なので、三成とは違い純粋な。



「吉継君はほとんど城から出ないんだけどね。
全くどこからそんな根も葉もなさすぎる噂が…」

「うわああこっち来るなー!」

「ヒヒヒ、捕まれば生き肝を喰われるぞ。
腹からそのまま喰ろうてやろうなァ。
そら転べ転べ。」

「やだ!やだあああ!」

「吉継君!ちょっとこっちに来てくれるかい!?」





秀吉が優しく肩に手をおいてくれたことが心憎かったと、後の軍師は語る。



 

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