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朝早くから薄紫の小袖を翻して廊下を走り回っていた手鞠が、端の方を歩いている半兵衛の背中を見つけた。
慌てて足音も消さずに駆け寄ると、向こうも足を止める。
「はんべー!はんべー!」
「手鞠、え。
大事だよ。え。」
「半兵衛。」
「そう。」
「半兵衛!あのー」
「手鞠、例え君が秀吉の軍一の大武辺者だとしても、もう一人前の大人になるんだよ。
礼儀や落ち着きは持っていなくちゃならない。」
人差し指を立ててそう言われ、多少きょとんとはしたものの、すぐに両腕を下に下ろした。
「お早うございます半兵衛。」
「そう、挨拶は基本だね。
お早う手鞠。
それでそんなに慌ててどうしたんだい?」
「伊達さん達が門の近くまで来ています。」
「全軍集合!!」
【朝の反乱軍】
「それで、だ。」
城内の一室に、やや不機嫌そうな半兵衛の咳払いが響いた。
いや、実際不機嫌な半兵衛とその隣に手鞠が座っている光景を前にして、笑っていたのは何の前触れもなくやってきた伊達の筆頭ただ一人。
「つまり君の発言をまとめると、慰安の旅の途中で同行していた者とはぐれたから、ここに身を寄せて探したいと言うんだね。」
「that's right。」
「ああ、合っていて安心したよ。
あんまり荒唐無稽な話だったから僕の耳が取れて歪んで聞こえているのかと思った。」
「まだ付いてます半兵衛。」
「ありがとう手鞠。」
「ハハハ、nice jokeだな竹中。
まあそんな理由で世話になりてえんだ。
一緒に動いてる奴が見つかるまでで十分だからよ。」
「もちろん歓迎するよ。
地下の光すら届かない部屋に石造りの部屋があるから貸し切りで使わせてあげよう。
格子で遮られているから身の安全も保証してある。」
「いやそれ牢獄じゃねえか!」
「打ち首寸前の君が住むにはぴったりだろう?
寸前というよりは正直秒読み段階に入っているよ。」
「really!?」
ギャーギャーと騒がしくなりだした場を見かねて、今まで口をつぐんでいた小十郎が膝を立てた。
「申し訳ない、失礼は承知している。
しかしはぐれた者とはここから先まで共に行くと決めた仲。
今は敵国の垣根を越えて情けをくれないか。」
「嫌だよ。」
「あっさりすぎだろ!」
「ぐっさり?
手鞠、ぐっさりしてあげてくれ。」
「Don't say!
てか槍構えんじゃねぇそこ!」
いそいそとどこからかぐっさり用の槍を取り出した手鞠を指さしながら左手はちゃんと小十郎を掴んでいる。
弱い。
「大体女子にdangerな武器を持たせんなよ、破天荒になってんじゃねえか。」
「何を言っているんだい、手鞠は少し人より行動力があるだけだよ。
まあ時々大工の棟梁たちに混じって天守閣の瓦を直しているけどね。」
「それは行動力って話か!?」
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