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半兵衛たちが外へ出かけるには大分時間がかかる。
その内訳は外に買いに行く物をまとめるのに二割、身支度をするのに二割、誰かに留守を任せるのに一割、そして。
「手鞠、ここに立ってごらん。
ああ秀吉も頼む。」
「はい。」
「うむ。」
「ふむ、襟巻きは僕もしているから付けさせて…手袋、手袋はどうかな…今日は寒い…けど槍を持つときに滑るか…いやしかし指先が霜焼けにでもなった方が後々…秀吉はこの程度なら何とも…しかし…」
過保護をすること、五割。
【買い出し日和】
本格的に冬が始まり、城下町の賑わいも大分落ち着いていた。
木枯らしが吹いても元気なのは子供くらいで、それでも寒さを振り払うような威勢の良いかけ声があちこちの店先から響く。
「着こんで良かったよ。
今年の寒風は今まで以上だね。」
「冬将軍が近いのであろうな。
しかし…。」
「おお殿んとこの武人さん!
晩飯の具にお麩はどうだい!」
「おふっ?
おふっはうまいですか?」
「うまいよー!」
「…手鞠は元気だな。」
「風の子の代名詞だからね。」
遥か五軒先の店から声が聞こえてくる。
遠くからでも分かる薄紫の小袖の下はさらししか巻いていないし、白い半股も膝上までしかない姿は見るだけで寒いのに、本人は一向に気にしていない。
ほとんど強制的に巻かれた襟巻きだけが何とか季節らしい。
「君のように寒さに強い体なら良いのだけど、あの子のは特訓をして寒さに気づいていないだけだからね。
本来は寒がりで体は冷えているんだ。」
「む…女の冷えは怖いからな。」
年頃の女子が体を冷やすことを危惧していると、そんな思いを知ってか知らずか手鞠がてってか戻って来た。
「半兵衛ー。
おふっ、おふっ貰いました。」
「そんなに力を入れて発音すると奇妙な笑い方に聞こえるよ手鞠。
今日は夕げの買い出しだと言っただろう?」
「お店の人がご飯がわりにどうぞって。」
「まさかの主食の座狙いかい…」
「商人魂だな。」
とりあえずその魂を見込んで麩も試してみることにした。
普段のように料理人に任せていれば決して口にしない組み合わせでもあることだし。
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