豊臣軍 | ナノ


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それから夕日が沈みかけるまで蔵の中を探索し、どうにか粗方の物は運び出し終えた。
空っぽになった蔵を見て半兵衛が満足そうに頷く。



「一日で空に出来るなんて上々だ。ありがとう手鞠、黒田君」

「つっかれたなあ、おい……結構な肉体労働だったぞ」

「本当に感謝するよ。言葉のお礼だけで済ますのは胸が痛むな」

「お、何か見返りでもくれるのか?」

「さあ戻ろうか手鞠」

「痛むだけかい!」



最後に蔵の内部を確認していた手鞠が、返事をしながら扉に手をかけると。
扉の蝶番に何か引っかかっている物があった。



「?」



目をこらしてよく見てみると、白い何かが床と扉の隙間に存在する。
扉の木の樹脂で引っ付いてしまったのだろう。
開け閉めする扉に合わせて動くので、今まで気づかなかった。

そっと手を伸ばすと、指先がそれに触れる。
紙だ。
破かぬよう慎重にその物体を扉から剥がす。

それは一冊の帳簿。
いや帳簿と言うにはあまりに薄い、拙い冊子だった。



「……手鞠?」



呼んでもなかなか来ない手鞠へ、半兵衛の方から近づいていった。
パラパラと薄い書をめくり、首をひねっているその背後に立つ。



「半兵衛、これ絵が描いてある」

「そのようだね。どこでこれを?」



ここ、と指さした場所を目で追いながら、手鞠から書を受け取る。
同様にパラパラと捲ってみると、確かに手鞠が首をひねる理由が分かった。

そこに描かれていたのは他愛もない花や鳥。
色が使われているわけでもない、墨一色で描かれた何の特徴もない物。
捲っても捲ってもそんな絵ばかりが続く。



「習作…にしては技法が使われていないな。まるで戯れに辺りの物を描いているようだ」

「どこの場所で描いたのかな」

「ううん、これだけでは…」

「この城の近くだ」



ぬっと割って入ってきた黒田が言い切った。



「……なぜそう思うんだい?」

「この城の彫り込み装飾が描かれとるだろ。この頁の…これだな」



黒田が指さした箇所には、複雑に入り組んだ花の模様が描かれている。



「こりゃあ秀吉の好きな螺鈿細工だ、城のあちこちに使われとる。小生は建築も好きだからな、こういった模様はよく見るぞ」

「あ、本当だ。これはあのお部屋の花瓶だね」



手鞠が指さした絵は、半兵衛にも見覚えのある花瓶の模様が描かれている。
そう言われてみると、他のどの絵も、どことなく見覚えのあるものばかりだ。



「しかし、この程度の技術であれば絵師ではないだろう。弟子にしたって拙すぎる。一体誰が……」



ぱら、と最後の頁が捲られて。
半兵衛はそこで言葉を区切った。

最後にようやく人物画が現れたのだ。
鎧を身にまとった、男のような体格の絵が。




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