▼
それからああでもない、こうでもないと仕分けをしながらも、お日様が高く昇る頃には荷物も半分ほどになってきた。
誰からともなく空腹を訴えたので、木陰に昼餉の席を設けた。
「ふう、くたびれたね」
「いただきまーす」
「お前さんは口を動かしてただけだろ」
「おや、真贋を見分けるのは途方もない労力を使うんだよ」
握り飯を頬張りながら、少し離れた所にあるござを見つめる。
家具から茶器からガラクタから、あらゆる物が無尽蔵に積み上がっていた。
「少し放っておくと駄目だな、あっという間に不要な物か溜まる」
「それだけ多くの人間がいるってこった。おい手鞠、食いすぎだ。今何個目だお前さん」
「五個!」
「全部で十個だったろが!しかも鰹ばかり食べたな!」
「僕のもあげるよ手鞠。五個も食べられないからね」
「わーい」
「せめて小生を数に入れろ!」
強い日差しが隠れたので、また蔵掃除を再開する。
半分も過ぎれば動き方にも慣れが見えてきて、どんどん作業は進んでいった。
「これだけ奥に行けば、そうそう変わった物も出てこんな」
「そうだね。凄く昔の物ばっかり」
ただ骨董品が出てくる割合も増えたので、慎重に探りながら物を運び出す。
「……暗くて狭い場所だと妙に落ち着くな。小生、将来は地下の暮らしになるかもしれん」
「それどんな未来なの……ん?」
手鞠が手にした物をまじまじと見つめる。
角度を変えたり、透かしてみたり、わずかな光でどうにかそれをよく見ようとする。
「どうかしたか?」
「ねえ暗、佐吉って名前の人知ってる?」
「佐吉?どこかで聞き覚えがあるような……」
数秒沈黙が降りて。
直後に二人が口を開いて大声を出したので、蔵の外で待機している半兵衛の肩がびくりと跳ねた。
「半兵衛、半兵衛ー!」
「何だい騒々しい、驚いたよ」
「これ三成の!」
「え?」
手鞠が手に引っ掴んで走ってきた物は、子ども用の道着と袴。
ついでに竹刀も抱えてきた。
見覚えのあるそれを半兵衛が手に取ると、道着の胸元に白い糸で「佐吉」と縫い込まれている。
「……ああ、三成君が小さい時の物か!すごく懐かしい」
「はっはっは、ずいぶん小さいなあ」
半兵衛よりも頭一つ小さい手鞠にあてがっても、まだ服の方が小さい。
大切に保管されていたようで、色落ちもほつれも見られなかった。
「よくこれを着て秀吉に手ほどきを受けていたよ。全くかなわなかったけど」
「あの可愛げのない男でも小さければ可愛かっただろ」
「そりゃあ可愛かったよ。小さくて素直でね、まさか僕より背が高くなると思わなかったけど…。佐吉君を手放した時は結構寂しかったんだ」
ああ、と黒田が合点が行く。
だからここまで手鞠の教育に熱心なのかと。
元から世話焼きで教育好きなのだ。
「三成小さかったんです?」
「そうだよ、手鞠よりもうんとね。ふふ、秀吉にも見せてあげよう」
顔を綻ばせて自分の足元にそれを置く半兵衛を見て、手鞠も嬉しそうに笑った。
恐らく、真っ赤になった三成のとばっちりを受けるのは自分だと確信した黒田は笑えなかった。
prev / next