▼
「おお、こりゃ小生の昔の甲じゃないか。懐かしいな」
「あ、三成が折った刀達だ」
蔵の中には不要になったあらゆる物が詰め込まれている。
その中には自分の上司に報告せず、こっそりと持ち込まれたものも多く。
「半兵衛、大量の藁人形が出てきました」
「……吉継君、あれだけ丑の刻参りをやめてくれと言ったのに」
「あいつはどれだけ呪いたい相手がいるんだ?」
「あ、全部に黒田って書いてあった」
「おい!」
両腕に抱えるほどの藁人形を持って手鞠が出てきたが、どう扱ったものかと半兵衛が顎に指を添えて悩む。
「不要ではあるのだけど…これ、そのまま燃やしていいのかい?」
「藁だからよく燃えます」
「いやいやいや、絶対に刑部の怨念が詰まっとるぞ。それを燃やしたら小生も燃えたりしないだろうな」
「試してみようか、手鞠」
「えい!えい!」
「あ!躊躇いもなく突き刺すな!こら!」
結局燃やすのは何か気が咎めるということで、黒田が全部引き取った。
「それどうするの?」
「癪だが部屋の押し入れにでも入れるしかないな」
「(この流れまでが吉継君のいじめなんだろうね…)大事に扱ってあげるといい」
手鞠の発見で進みが止まっていたが、次は黒田が見慣れないものを持ってきた。
「これは何じゃ?ずいぶんと巻数の多い書だな」
「書?」
大柄な黒田が両手を広げて運んできたのは、薄い書の集まり。
おおよそ五十はあるだろう。
首を伸ばしてその題名を目にした手鞠が、半兵衛が持ってるやつだ、と呟いた。
「ん?もう持っとるのか」
「うん、半兵衛の部屋の棚に入ってるよ。でももう少し分厚かったような…」
「半兵衛、お前さん何か知ら……知っとるな、うん」
顔を両手で覆ってしまっている半兵衛に、黒田が頷いた。
思い出したくない事を思い出してしまったかのようだ。
「……死去した筆者の、未公開の書と言われてしまって……」
「…買ったのか、お前さん」
「実際に買ってみたら、既に発売されている連作を細かく分けただけだったよ。古典的な手に引っかかってしまった…」
「気持ちは分かるぞ、うん。期待するよな」
「燃やしてくれ…」
「それは書をか?お前さんをか?」
余程値が張ったのだろう。
もう見たくもない様子だったので、数ある不用品の中にこっそりと紛れ込ませた。
prev / next