豊臣軍 | ナノ


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「じゃあ刑部も獣なの?」

「ひひ、われは獣に変貌した半端者よ。生まれながらの主にはかなわぬ」



吉継が昔から自分の事をなぜ獣と言うのか分からなかったけれど、良い気も嫌な気もしなかったのでそのままにしていた。
こちらへふよふよと浮いてきた数珠を掴むと、自分の体ごと浮き上がったので声を出して笑った。



「人と獣の違いって何だろう」

「ぬしは何と考える」

「うーん…二つ脚と四つ脚、とか」

「それならば鳥は人という事になるな」

「あれ」



んん?と頭を捻る。
難解ななぞなぞになってきた。



「立って歩いたら人?」

「ならば赤ん坊は獣よ」

「あーそっか。じゃあ笑ったり話したりしたら、人。獣はそんな事出来ないでしょ」

「耳の聞こえぬものは喋れぬ。それらは獣か?」

「人だよ。あれ、難しいな」



ふよふよ浮いている数珠はゆっくり降りて、吉継の目の前で止まった。
互いの目の色が分かるくらいの距離にあるその顔を、むぎゅっとつままれる。



「あいて」

「……獣は、考えぬ。本能のままに生きる事を止められぬのよ」



そら、と右手の包帯の端を浮かせて見せるので、頬を引っ張られていてもつい視線がそちらへ行ってしまう。
吉継はそれを見てヒヒッと笑った。



「軍師殿は上手くぬしを躾けた。ここまで人の皮を被れるようになるとは」

「ひょうふは」



喋ろうとしたので、ぱっと手が頬から離れた。



「刑部は獣じゃないよ、頭いいからいっぱい考えるもん」

「われは見てくれだけが獣になったのよ、半端者と言うたであろ」



頷きながら話を聞いていると、吉継は包帯をたなびかせたまま頭を撫でた。
手鞠を数珠から降ろすと、今まであちこちに散っていた数珠がいっぺんに集まり、また吉継の後ろで円を描く。



「珠磨きも終わった。そろり戻らねば、軍師殿が心配しよう」

「うん!」

「ぬしはまた潜って戻れ」

「分かった!」

「……冗談よ、乗せてやろ」




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