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「しばらくはここで頭を冷やせ」
上半身を腕ごと鎖で雁字搦めに縛りつけた三成を、城の見張り小屋へ放り投げた。
ずいぶん高い位置にある上非常に狭いので、どれだけ暴れても周囲の人間へ迷惑はかからない、そんな場所だ。
「刑部!私は間違ったことは言っていない!」
「そうよな、ぬしが言うならそうであろ。しかし城内のいさかいを禁じている軍師殿に命じられておる故、仕方なしよ。今の内に問うておきたいことはあるか」
「はーい刑部」
「どうした手鞠」
「どうして私も縛られてますか?」
鎖を噛み切ろうとしている三成の横には、同じように腕ごと鎖で拘束された手鞠が正座していた。
何が起きているのかを全く心配していないその顔を吉継が数珠でぺちぺち叩く。
「それはな手鞠、三成だけを閉じ込めればこれは理不尽さに暴れるであろ。しかしぬしも同列に閉じ込めれば、程度も少しはましになるというものよ」
「いけにえかー」
「よい言葉を知っておるな」
秀吉も半兵衛もいない今、三成を抑えるのは骨が折れすぎるというのが吉継の主張だったので手鞠もそっかそっかとうなずいた。
「時が経てば出してやろ。では仲良うな」
「誰がこのような奴と――!」
三成が叫び終わる前にぴしゃりと扉をしめて吉継は去っていった。
当然足音は聞こえなかった。
「くっ…」
「あ、雨だ」
憤りにもんどり打つ三成とは反対に、見張り用に開けられたら小窓から外の空を眺める手鞠。
日暮れと共に重なり合った雲は暗さを増して、そこから絶え間なく雨を降らせていた。
「秀吉様雨に当たらなかったかなー三成……………三成、鎖は噛みきれないと思うよ」
「何!?」
歯ぎしりのような音が聞こえてきたと思いきや、そこにいたのは鎖に歯を立てる三成。
驚いたような顔にこちらが驚きだがそれでもやめようとはしない。
「駄目だよ三成、歯が折れるよ」
「知るか!また生える!」
「生えないよ三成!それで最後だよ!」
しかしどうにか止めたら止めたで、他にする事もないのかこちらを憎々しげに睨んでくるようになった。
手鞠としては半兵衛に仲良くするよう言われているし、彼が秀吉を大好きなのは十二分に知っているため歩み寄りたい気持ちがあるのだけど。
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