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三成としてもこの(自分にとっては)新参者の存在をそれなりに観察していて、朝から城中を駆け回っていることも認知していた。
城内を走る特例が出ているのは確認済みな上、自分もしょっちゅう廊下を駆け抜け叱られるのでそのことは咎められない。
これにはこれなりの役の立ち方があるのだろうが、そうは言えども何かが、むしゃくしゃする。
「三成ー、半兵衛から文が」
パァンと容赦なく手鞠の手首を攻撃し、取り落とした文を奪った。
その衝撃でばらばらと手元から他の文が散らばる。
とっさに自分がやってしまった事に気づかず、文が文がーと拾い集める手鞠を見下ろしていたら、後ろからしたたかに殴られた。
「軍師殿に仲良うと言われたであろ、ぬしは小姑か」
「違う刑部!体が勝手に…!」
「あ、刑部これ半兵衛からの文で」
パァン
学習しない頭に再び数珠が落ち、手鞠はまた床に散らばった文をせかせか集める羽目になった。
―――――――…
「やれ、何が気に入らぬ」
「…全てだ!」
走り出さないよう猛犬よろしく簀巻きにされ、吉継の部屋に座らされた三成が吐き捨てる。
その零か百かの性質はどうにかならぬかと、希望が限りなく薄い望みをこちらも吐いた。
「刑部、貴様は楽観が過ぎると言っている!あの小娘を入れさせるべきではない!」
「ヒヒ、われほどの悲観論者を捕まえて何を言う。われはぬしより半年早く仕官したでな、その分あれと関わっているだけのことよ」
そう含んで聞かせてもギリギリと歯ぎしりをやめないこの存在には耳に入らないと見える。
しばらく時間がかかるのは簡単に算段出来た。
「とは言え、ぬしの大事な大事な太閤殿もあれが入るのを認めておろ。かの意に背くほどぬしの義は軽くはないと見受けていたが、なァ?」
「く……!」
歯が無くなるのではないかと思うような歯ぎしりの果てに、何かがぷちりと音を立てて切れた。
三成の堪忍袋の緒であればこんなものでは済まないので、嗚呼しまったと緊張感なく感じたときには。
「…小娘えええぇ!」
体中の縄を力業で引きちぎり、三成が部屋を飛び出して行った。
「……やはり鎖にすべきだったか……」
それももう後の祭。
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