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それから半刻ほどして。
「秀吉様が非であると仰られたのなら、半兵衛様といえども全力で刃向かう所存…!」
「本当に融通の利かない子だね君は…そもそもこれは僕と秀吉の問題であって…」
終わる気配が全く見えない。
ぐわばと頭を掴まれては三成に引き寄せられ、肩を掴まれては半兵衛に引き戻され、体が左右の振り子運動をやめてくれない。
「半兵衛様のお考えはいつも正しいですが、秀吉様のお考えがこの世の定理!貴様も忠誠を誓ったのなら当然秀吉様のお考えに賛成だろう!」
「えっと、」
「無駄だよ、秀吉のためにこそ手鞠は僕の言うことしか聞かないのだからね!そうだろう手鞠!」
「う、わ、はい」
そうまで体を動かし合っては背負っている槍がどちらかに刺さりそうで気が気でなかった。
その上どちらも渾身の力を使っているのに返答を求めるので、呼吸さえやっとになる。
「大体君は秀吉ではないだろう、口出しは不要だ。手鞠はこのままでいさせるよ」
「半兵衛肩痛いです」
「秀吉様に代わりを任命されたとなれば引くわけにはいきません。手鞠、貴様の装束は改める」
「三成頭痛い」
「全く分からず屋だね、それなら相手にしないまでだよ。手鞠、しばらく僕の部屋に行っていてく…」
「!」
「うわあ!」
そう口にした瞬間、三成が手鞠を真ん中から担ぎ上げた。
そのまま普段の駿足で走りだそうとしたのを。
「手鞠、背負い投げ!」
「ぬぉ!?」
腕の隙間に手を差し入れて思い切り三成を背負い投げたが、向こうも咄嗟の判断で見事に着地した。
その隙になるべく引き離そうとしたのを。
ガキィン!
「わ!」
屈み込んだ手鞠の周囲に携えていた二本の刀と、ついでに鞘を突き刺した。
ぴくりとも動けなくなった姿を前になぜだか向こうは満足げだ。
「あ!畳まで傷つけて!」
「秀吉様がお戻りになるまでこれを逃さぬのが私の使命です!」
「半兵衛、あの、」
「何が何でもうやむやにさせないつもりだね…」
「…みつな、」
「無論です!!」
「え、と………」
手鞠の中で何かがぷちっと弾けた音がして。
気づいた時には背の槍に手が伸びていた。
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