豊臣軍 | ナノ


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朝。
どれだけ眠ったのか分からないほど眠ったと見えて、頭の記憶を司る部分がうまく働かない。

それでも枕元の湯飲みに入った水を見れば、まざまざ昨日のことが蘇ってきた。



「………おや。」



ふと下げた視線の先、見覚えのある黒い鶴が壁に下げられていた。
それは紐が通されているらしく、きちんと数十羽ずつ重ねて貫かれている。

きちんと、逆さまに。





「……あの獣子めが……」












―――――…



「わあああ来るなー!」

「ヒヒ、待て待てェ。」



またも昼下がりに遊んでいる二人を見つめながら、半兵衛がため息なのか小さな笑いなのか分からない息を吐いた。



「全くあの二人は……」

「城下の噂も消えてきたことだ、気にするな半兵衛。」

「…そうだね秀吉、僕ももう少しゆとりを――」

「心の臓を喰ろうてやろうなァ、そらそら。」

「やだ!やだ!」

「……持つだなんてことはやめてしっかり気を引き締めているよ。」

「……そうだな。」

「こら手鞠!大谷君!」



こちらもいつも通りの風景に、秀吉も小さく笑いながら息を吐く。
半兵衛の呼び声に二人とも比較的速やかにやってくるも。



「これは丁度良い、軍師殿の心の臓を喰らうとするか。」

「!
だめええぇ!」



びったーんと小気味良い音を立てて吉継に張りつく。



「半兵衛は!半兵衛はだめ!」

「しかしわれは飢えに飢えてなァ、人の心の臓無しでは生きられぬ。」

「私の食べていいから!
痛くしないなら全部食べていいから!」

「ぬしのは昨日全て喰ろうた。」

「じゃあもう一つ作るからあー!」



「……半兵衛、何を感動しておる。」

「いや……悪くないかなと思ってしまって…」



わあああと泣きつく手鞠をなだめるため、この後吉継が『軍師殿の心の臓は取りません』という内容の念書を書かされるはめになった。



 

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