豊臣軍 | ナノ


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「あれ、今半兵衛の声がしたような…」

「そら隙ありよ。」

「わあ!」



つるりと数珠の一玉が足元をすくい、そのまま吉継の膝上に仰向けの形で連行された。



「これはこれは活きのいい肝よ、ヒヒッ。」

「半分だけにしてね!
半分だけにしてね!」

「手鞠ー!吉継君ー!」

「あ!やっぱり半兵衛が呼ん」

「がぶり。」

「わああああん!」







――――――…



「全く君達というものは…」



興奮のあまりしゃくりをあげている手鞠と、どこ吹く風の吉継を前に、眉間に皺を寄せた半兵衛が言葉を漏らした。



「吉継君、君も妙な噂を立てられて心外なのは分かるけれど、悪乗りはよしたまえ。」

「いえ、この遊びは噂より前からしておりますが。」

「…………まさか、城外でしていないだろうね。」

「お察しの通り、暗い方が手鞠がよく怖がります故。
よく夜半に城の周りで追い回します。」





元 凶 発 見 。



「半兵衛、顔が青いです。」

「うん…いや、言葉が見つからなくてね。
吉継君、風評もあるからそういった創作意欲のある遊びは控えてもらえるかな…」

「然と。
手鞠、肝取り鬼はこれで終いよ。」

「うん。」

「(そういう名前だったのか…)」





いくら紛らわしいことを引き起こしたにしても、さすがに互いに遊ぶなと言い聞かせることは出来ない。
この二人はいつも昼げの小休止に、寝入る前の空いた時間に、無理のない範囲で遊んでいるだけなのだ。



「……とにかく、あまり誤解を招くような遊びはしないこと。
いいね?」

「「はーい。」」







次の日。



「刑部ー。」

「何だ。」

「おーい刑部ー。」

「何……それは数珠よ。」

「えっ。」



振り向けば、箱にしまった数珠達を手鞠が一生懸命揺すっていた。



「でも半兵衛がこれは刑部の一部だって。」

「手足に問うても答える口は無かろ。」

「確かに。」



そう納得したようにうなずいている手鞠の傍らに、黒い半紙が大量に積まさっているのを見た。
日頃から手鞠が文や字の練習をするために自分の書き損じをもらいに来ていたので、それを使い果たした結果ああまで真っ黒になったのだろうとは想像がつく。



「して、それは。」

「ああそうだ。
この半紙使い切ってもう書くとこ無いくらいなんだけど、これをもう一回墨にできるかなあ。」

「紙と混ざった時点でそれはかなわぬ。
そこまで書き込まれればそれらも本望であろ。」

「そうかー…もったいない。」



眉を下げる手鞠とは間逆に、吉継は口角をにいぃと引き上げた。





「どれ、われが良いことを教えてやろ。」



 

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