豊臣軍 | ナノ


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それから小机をもう一つ持ち出して、手鞠の横で同じく習字をやらせることにした。
ああいった気性なので、何か三成に変わりがあれば教えるように手鞠に耳打ちをする。



「貴様は床で書くのか。」

「うん、私は座って書く機会あんまりないから。
どんな姿勢でも読める字を書けるようにしたい。」

「そうか。」


バキャッ


「半兵衛、三成がすってた炭が飛び散りました。」

「…三成君、炭は力を込めすぎると砕けるからね。」

「はっ!」



時間はかかったが墨を用意し終えると、もらった紙の前で腕を組む。
こういった時は常々、皆何を書いているのか三成にとっては不思議でならない。

練習に相応しい言葉を知っている訳ではないし、思いついた物を書くというのも全く苦手だ。



「貴様は何を書いている。」

「私は文の練習ー。」



寝そべったまま筆を紙から離し、指先でくるくると回す。
見れば兵何人負傷だとか、敵の陣営がどうとかを書き連ねている。
何度も同じ紙を使っていると見えてほとんど余白がなかった。

手鞠は半兵衛の脚としてよく動くので有益かも知れないが、自分は使うことのない書き方だ。



「三成のよく使う漢字の練習したらいいよ。」

「そうか。」



ならばある、とようやく筆を動かし始めた。

数分後。



「半兵衛、三成の半紙が真っ黒です。」

「三成君、『斬滅』とか『懺悔』とか画数の多い言葉を使っちゃいけないとあれほど言っただろう。
潰れてるじゃないか。」

「はっ!」

「いや、はっ!じゃなくて…ほらまた!
『儘滅』とか意味分かってるのかい!」

「滅ぼします!」

「大ざっぱ過ぎる!」



どうどうと手鞠になだめられ、最初からお題を与えておけば早かった、と考え直した。



「うーん…じゃあ君の身近な人の名前でも書いていてごらん。」

「はっ!」



これならば複雑すぎる漢字もないし、とようやく安堵する。
小さな頃にこのようなやり取りはあったものの、ここまで育った後も同じ事をすると誰が思っただろう。
手鞠が「儘滅」まで書いた半紙を回収してちゃっかり練習用の紙にしていた。



「半兵衛、これは何て読みます?」

「じんめつ、だよ。
斬滅と意味は多少違うけど生涯使わないから覚えなくてもいい。」

「はい。」



お題が出されたせいかまともな漢字のせいかさらさら筆が進むようで、もはや何人分か書き終えていた。


 

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